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毎日新聞北海道支社報道部で「デスク」をしています。記者が書いてきた原稿を直したり、取材を指示したり、紙面を組み立てたり、という仕事です。毎日新聞は全国紙ですが、私の場合は入社して22年間、北海道一筋できました。ということもあり、北海道を愛する気持ちをとても強く持っています。日々の紙面のデスク当番のほか、「自然食はおいしい!」「札響通信」というコーナーも担当しています。食と音楽(分野はクラシック)に関心があります。日々、感じたこと、考えたことをつづっていきます。宜しくお願いします。
さて、最近「牛乳が体に悪いって、本当?」といった記事が新聞などを時々にぎわしていますね。「病気にならない生き方」という本がベストセラーになり、その中に「牛乳は体に悪い」という主張が書かれています。著者で外科医の新谷弘実氏に対し、牛乳業界をバックにした学者や医師が「科学的根拠を示せ」と公開質問状を送りつける騒ぎになっています。
実は私は新谷説に共鳴する立場です。昨年3月25日付毎日新聞道内版「自然食はおいしい!」で「知っておきたい『牛乳有害説』」という記事を書き、4月29日付同欄で新谷氏のインタビュー記事を載せました。新谷氏に対する全面的な反論を牛乳研究者である北大名誉教授の仁木良哉先生からいただいたので、これも6月24日付の同欄に掲載しました。
消費者・読者にしてみれば、難解な学術論争を聞いてもわけが分からないかもしれません。私としては個人的見解はどうあれ、この論争についての自分なりの評価をきちんと載せておくべきだったと反省していました。その点を自分なりに整理し、6月21日付の「デスク席」というコラムに「牛乳有害説の根拠」と題して次のようにまとめました。
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「牛乳有害説」に牛乳研究者や業界が反発しているらしい。「科学的根拠がない」として批判の矛先はベストセラー「病気にならない生き方」の著者、新谷弘実氏に向けられている。
新谷氏の主張は外科医としての臨床経験から観察した「現象」を根拠にしている。それによると、牛乳を含む動物性食品を多食する人ほど胃相・腸相が悪いという。その原因を科学的に説明し切れていないとしても、現象それ自体は揺るがない。「なぜ?」の科学的解明はさまざまな分野の学者たちの仕事のはずだ。現象を指摘した医師を責め立てるのはお門違いだろう。
「食の欧米化」がもたらした動物性食品の過剰摂取が日本人の病気を増やしたことに疑いの余地はない。牛乳だけを例外扱いできるのだろうか。国が作成した「食事バランスガイド」には牛乳の1日摂取量の目安は180CC、チーズをひとかけら食べたら90CCとあり、国も抑制的な摂取を推奨していると読める。
JR札幌駅のカフェで「駒ケ岳牛乳」「山川自然牛乳」「おこっぺ牛乳」などを嗜好品(しこうひん)として私は時々飲んでいる。安売り牛乳とは似て非なる、生産者の良心が結晶したような牛乳だ。このような良質の牛乳を少しだけ飲むのもいけないとは新谷氏も言っていない。
輸入飼料に依存し、大量生産・大量消費を前提にした酪農に警鐘を鳴らしたのが「牛海綿状脳症」ではなかったか。その反省はなされたのか。そのことの方が私は気になる。
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書店の健康本コーナーにいけば、牛乳が体によくないことを説明した本をいくらでも見つけられます。雑誌でそういう特集が組まれたことも何度もあります。しかし、牛乳業界などはそのような主張に反論せず、黙殺してきたのが実情です。
牛乳そのものを否定しなくても、高温殺菌を主流にした「今の牛乳」は良くないという立場の人は酪農家にもおられます。「デスク席」で紹介した「良心が結晶したような牛乳」(もちろん低温殺菌牛乳です)をつくっているメーカーのホームページなどをみると、どのような考え方で生産しているか、その理念を説明しています。米国の穀物飼料に依存し、牛の生理を無視して大量に搾り続けることを当然視する現在の酪農に対する痛烈な批判にもそれは読めます。国の自立に資するべき農業が米国依存の構造に組み込まれていることへの異議申し立てだと私は勝手に深読みしています。
牛乳の有害・有益論争を深めていくと、そのような酪農の形態を作り上げてきた農政と、その上に乗っかって利益を上げている農協の問題を必然的にあぶり出すはずです。農協の営農指導に従い、巨額の負債を背負って大規模化の道を突き進んできた酪農家が「これでよかったのだろうか」と疑いの気持ちを抱きかねない。それが嫌だから、無視・黙殺を決め込んできたのだろうと私は推測しています。
私の昨年の記事はネット上で攻撃に遭いました。大半は匿名のブログでしたが、実名のある方には「北海道の酪農家が困っているのに、北海道の新聞記者が何ということを書くのか」と非難されました。無視・黙殺を決め込んできた学者たちは新谷氏の本の影響力を今度は無視できないと思ったのか、公開質問状という形で反撃に出てきました。虎の尾を踏んだのは果たしてどちらなのか。いずれ答えが出るでしょう。
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はじめまして。海です。北海道を愛するがゆえに業界の歪みが許せなかったのでしょうか?利益より真実を知りたいのが私達読者です。
これからも頑張って下さい。
2007/7/2(月) 午後 3:43 [ 海 ]
海さんへ さっそくのコメント、しかも温かい激励をありがとうございます。「良心の結晶」と呼ぶべき牛乳を生産している方に尋ねたことがあります。「このような牛乳をつくろうと思われたのはいまの牛乳への批判からですか」と。その方は「もちろんです」と言いました。「でもそれを公に言ったら大変なことになる」とも。言論の自由があるといっても、実際にはいろいろなしがらみや権力への恐怖心から言いたいことも言えない世の中に私たちは生きているということです。農協を通さずに牛乳を生産する農家を「アウトサイダー」と言うらしい。いかにもドロップアウトしたようなイメージですが、私はそのような牛乳を「オルタナティブ牛乳」と名づけてはどうかといま思いつきました。
2007/7/2(月) 午後 4:30 [ yuriyukimainichi ]
牛乳はおいしいので毎朝飲んでいます。
頑張って下さい。
2007/7/2(月) 午後 6:17 [ きー ]
きーさんへ 牛乳が好きなのですね。実は私も嫌いではありません。ただし、体に良いと思って飲んでいるわけではありません。コーヒーやお酒を飲むのと同じ感覚で、嗜好品として飲みます。飲むなら良質な低温殺菌牛乳を飲みましょう。JR札幌駅のカフェに置いてある牛乳を一度味わったら、スーパーの安売り牛乳なんて飲めなくなりますよ。
2007/7/3(火) 午前 0:49 [ 山田寿彦 ]
4日の道新朝刊10ページに「成分調整牛乳が人気」という記事が出ていますが、これはどうなのですか?
2007/7/4(水) 午後 1:52 [ 駒ケ岳牛乳はうまい! ]
体にいいわけがありません。牛乳の問題点の一つは高タンパク食品であるということです。高タンパク食は体液を酸性に傾け、中和のために骨に蓄えられているカルシウムが血中に溶け出します。牛乳を飲み過ぎると骨粗しょう症の危険が増すといわれる論拠がこれです。成分調整牛乳は脂肪分を落として「低カロリー」をうたい、消費者を引きつける狙いがあるのでしょうが、脂肪分を落とすことで一層高タンパクの食品に牛乳は変質してしまいます。牛乳メーカーがいかに食について無知であるかを示す事例でしょう。彼らはカロリーと栄養素のことしか頭にないのです。そもそも現代栄養学がその程度のものだからという見方もできますが。山田寿彦
2007/7/4(水) 午後 6:06 [ yuriyukimainichi ]
そもそも牛乳とは、牛の赤ちゃん(子牛)が飲むものと聞いたことがあります。そして人間の赤ちゃんは母乳を飲んでも、成人となった私達が母乳など飲みませんよね〜。
2007/7/4(水) 午後 10:56 [ 海 ]
海さんへ 人間にも突然変異で大人になっても乳を飲み続けることができる人種がいます。それはそのような環境でしか生きられなかった人々が生きるために身につけた能力だったと言えます。しかし、我々日本人には関係のないことです。山田寿彦
2007/7/4(水) 午後 11:47 [ yuriyukimainichi ]
7月4日午後6時6分の投稿で、成分調整牛乳が体によくない理由を書きました。その内容は雑誌「環」(藤原書店)2004年冬号の特集「食とは何か」に掲載された佐藤章夫氏の論文「日本人は何を食べたらよいか」を参考にしました。山田寿彦
2007/7/5(木) 午後 3:33 [ yuriyukimainichi ]
はじめまして!
今日牛乳について日記書いていました。まだまだ周りは信じてくれません。身体に良いと教育されたから仕方ないですが、私は給食の毎日飲まされる牛乳が怖いです。
2007/11/27(火) 午前 0:05
まず「 新谷氏の主張は外科医としての臨床経験から観察した「現象」を根拠にしている。それによると、牛乳を含む動物性食品を多食する人ほど胃相・腸相が悪いという。その原因を科学的に説明し切れていないとしても、現象それ自体は揺るがない。」というのは事実なのか?新谷氏以外の研究・論文があるなら示してもらいたい。
お門違いと批判するが、観測された現象と原因が牛乳であるとする因果関係の挙証責任は新谷氏にある。
第二に過剰摂取を言うのであればどんな食品でも過剰摂取の弊害はある。日本の伝統的食物である味噌汁も飲みすぎたら高血圧・腎臓病の危険性がある。
第三に新谷の主張「牛乳は子牛が飲むもの。人間が飲むのは自然の摂理に反する」は科学的な事実に反するし基準が不明。米にしても魚にしても人間が食べるものとして存在するわけではない。こんなことを言い出したら「タマゴは子どもになるためのもので、人間が食べるのは自然の摂理に反する」ということもできる。
人類の歴史で伝統的に食べられたものを基準にするならほとんど肉と果物程度になる。米も麦も魚も牛乳も人類史の中ではほぼ同時に食用にされた新しい食べ物である。
2007/12/26(水) 午後 5:33 [ corneli_scipio_africanus ]
>体にいいわけがありません。牛乳の問題点の一つは高タンパク食品であるということです。
肉も魚も、大豆だって高タンパク食品ですが。
豆腐は体に悪いのですか?
2007/12/26(水) 午後 9:51 [ なんですかこれ ]
当然これもご覧になったんでしょうね。↓
http://www.j-milk.jp/topics/8d863s000007j0p1-att/8d863s0000089pth.pdf
2007/12/27(木) 午後 4:41 [ n_science_watcher ]
毎日新聞の元記者・松永和紀氏の本を読んだ方が良いですね。
2007/12/28(金) 午後 2:12 [ snoweel2000 ]