公安調査庁―「夕刊フジ」寄稿記事「公安調査庁は組織見直せ」
「夕刊フジ」(5月28日発売号)
「公安調査庁は組織見直せ」
朝鮮総聯中央本部の売却問題で、深刻な打撃を受けた公安調査庁(公調)。東京地検特捜部が元長官の緒方重威氏を立件する方針であるうえ、警察当局は隠された背景に重大な関心を寄せている。日本を代表する情報機関は大丈夫なのか。公調OBでジャーナリストの野田敬生氏が緊急手記を寄せた。
「元長官が怪しげ取引」
公調は北朝鮮・総連に組織中枢を浸透されているかもしれない。17日付の毎日新聞朝刊は、現職の公調職員が、売買仲介者を緒方元長官に紹介した旨報道した。同庁は報道内容を否定。情報の出所は同庁と競合する警視庁公安部で、謀略情報の疑いもある。が、誤報と断定できないのは、公調が過去複数の秘密漏えい疑惑を取り沙汰されているからだ。
1999年、公調の協力者である元日経記者が訪朝し、スパイ容疑で拘束された。元記者は、同庁に提供した情報・資料を、抑留中、北の取調官から突き付けられたと主張する。つまり、北に同庁の内部情報が筒抜けだったというわけだ。
その元記者が国会で名指した公調職員の実名は意外なところでも再浮上している。2001年に奄美沖で撃沈された北の工作船から回収された携帯電話に、同人の連絡先が記録されていたという指摘があるのだ。
そもそも、長官職は庁内の最高機密を把握できる立場。元長官が組織的了解もなく、公調が調査する「破壊的団体」と接触などすれば、内通を疑われるのも当然である。
事件について同庁は、「OBとはいえ私人の行為なのでコメントする立場にない」などと責任逃れに終始している。が、そんなへ理屈が通るなら破壊的団体が行う私人との取引を一切調査できないことになってしまい、明らかにナンセンスだ。
「総連も監視できずに北の動きがわかるのか!!」
組織的関与がなければ問題ないという弁解は無論通用しない。むしろ逆だ。最大の問題は、同庁が報道直前まで、事態を察知・防止できなかった点にこそある。
総連中央本部など重要拠点の周辺に、同庁は定点の監視アジトを設けている。目と鼻の先の総連の動きすら分らないのに、北朝鮮本国の状況を把握できるはずがない。つまり今回、情報機関としての無能さが決定的にさらけ出されたのである。
今後の捜査の展開次第では、総連最高幹部も立件され、6カ国協議の進展にも大きな影響を与え得る。元長官の愚行によって損なわれた国益は極めて大きい。
「情報は筒抜け」
我が国の情報機関を標榜する公調。しかし、元長官が破壊的団体と私的に怪しげな取引をするような組織を、外国情報機関は信頼しない。お粗末な対応振りに、ついに自民党からすら公調不要論が飛び出した。
近年、対外情報機関創設の必要性が活発に議論されている。この機会に、公調の解体・再編も視野に、組織的見直しを徹底的に行うべきだろう。
のだ・ひろなり 1970年生まれ。東大中退後、94年公安調査庁にキャリア採用。98年夏、CIA情報分析研修に派遣。近著に『諜報機関に騙されるな!』(ちくま新書)。
(写真キャプション)
朝鮮総連本部の売却問題では、公調の体質も問題視されている