沖縄戦の集団自決をめぐる高校日本史教科書の検定問題が決着した。教科書会社六社から出された「日本軍により集団自決に追い込まれた」などの記述で、軍の関与を示す訂正申請を文部科学省が承認した。
集団自決検定問題は、二〇〇八年度から使用される高校日本史教科書の検定過程で、沖縄戦の集団自決に日本軍の強制があったとする記述は誤解を与える恐れがあるとの検定意見が付けられたことがきっかけだった。軍の強制を否定する研究があることなどを理由とした。各教科書会社は「強制」の記述を削除・修正して検定合格を得た。
記述削除に、沖縄では怒りが高まった。九月に大規模な県民大会が開かれ、抗議の声は拡大した。
今回の訂正は、教科書会社からの自主的な申請の形になっているが、文科省側が促したとされる。体面を保とうとしたのだろう。
各教科書会社は、十一月に「日本軍の強制によって集団自決に追い込まれた人々もいた」といった記述で訂正申請したが、文科省は「直接的な軍命令で行われたことを示す根拠は確認できていない」と「強制」記述は認めなかった。結局、各社は「軍の強制」という直接的な表現でなく「軍の関与」にとどめて再訂正申請をし、承認された。
昨年までの検定では「日本軍に『集団自決』を強いられた」という記述は認められていた。〇八年度からの教科書に検定意見が付いたのは、安倍政権になって従来の歴史教育を自虐的とする批判が強まっていた背景があるとの見方も出ている。検定が、時の政権の顔色をうかがうようなことがあれば、検定制度だけでなく、教科書まで信頼を失うことになろう。
承認された記述では、集団自決が引き起こされた背景が大幅に書き加えられている。多くの教科書は日本軍が手りゅう弾を配ったほか、米軍の捕虜となることを許さなかった軍の指導などを取り上げた。ある教科書は、今回の検定問題そのものや沖縄県民大会開催なども追記した。
沖縄県民からは、強制の文言回復を求めていくべきだと反発が残る。教育現場では「強制」か「関与」かの文言にこだわるだけでなく、沖縄戦の実相とともに、戦争の理不尽さ、むなしさ、そして平和の重要性を教える契機にしなければならない。
渡海紀三朗文科相は、住民を巻き込んだ国内最大の地上戦である悲惨な沖縄戦に関する学習がより一層充実するよう努めたいとの談話を発表した。その約束を忘れないでもらいたい。
パキスタンの首都イスラマバード近郊で、野党指導者ベナジル・ブット元首相の選挙集会を狙ったテロ事件が発生、ブット氏が暗殺された。
犯人はブット氏を銃撃後に自爆したという。爆発で集会の参加者ら多数が死亡したもようだ。核保有国でのテロが国際社会に与えた衝撃は計り知れない。テロ行為は断じて許されることではなく、強い憤りを覚える。
ブット氏はイスラム圏初の女性首相に就任した経歴で知られる野党パキスタン人民党(PPP)総裁だった。約八年半に及ぶ事実上の亡命から帰国直後の十月にも暗殺未遂の自爆テロに襲われた。
イスラム過激派の活発化などで政権基盤が揺らいでいたムシャラフ大統領は来月八日の総選挙を控え、「民主化の象徴」として国民の支持を集めるブット氏との連携で政権安定化を画策していたが、そのシナリオは崩れた。
野党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派も総選挙のボイコットを表明している。国内では各地でブット氏支持者らによる暴動が起きるなど治安が急速に悪化し、一気に緊迫化している。
アフガニスタンに隣接するパキスタン情勢の混乱で最も懸念されるのは、同国が持つ核兵器や核技術がテロ組織に流出することだ。ムシャラフ政権を支援しながら「テロとの戦争」を進めてきた米国をはじめ、世界の安全保障にかかわる重大な脅威となる。
テロ行為に対しては各国から強い非難の声が上がっている。ブット氏は親米派だっただけに、連携強化を図ろうとしていたブッシュ米政権も戦略の練り直しを迫られよう。国際社会はパキスタン情勢の安定と民主化に向け、連帯して支援すべきだろう。
(2007年12月29日掲載)