バス前輪のスリップ痕

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最も謎が多いのは、バス前輪が残したとされるスリップ痕です。

写真を見て妙だと感じるのは、スリップ痕の開始部分(特に左前輪側)が弧を描きながら歪んでいることです。

さらには、実況見分見取り図では左1.2m、右1mになっていますが、これは停車直前の最後のスリップ痕のみを計測した様です。写真やTV局の映像を見るとその手前に明らかに途切れたスリップ痕が見え、この部分が大きく歪んだ痕跡になっています。

左は短くスリップ痕が付き一旦途切れ、そしてそこから1.2mのスリップ痕。右は少し長めにスリップ痕が付き、左よりは少し長く途切れ、その後、1mのスリップ痕。

目測での判断になりますが、途切れ部分も含めたスリップ痕全体は、左が1.5m、右が1.8m程度と思われ、右の方が長いです(途切れ部分に関しては、ほとんど指摘されていない様です)。

そして、テレビ局の特集でも指摘していましたが、スリップ痕開始部分の幅がバスの前輪のトレッド幅よりも狭く(左1.2m、右1mの痕跡からの判定でしょうから、途切れる前を見ればさらに狭い幅になるはずです)、ブレーキ痕であれば必ず存在するタイヤ溝の痕跡もありません。

あまりに異様な痕跡な上に、バス運転手や関係者は事故から8ヶ月もこの痕跡を示されない状態だった為「事故の痕跡ではなく捏造」とされ、テレビで特集されるなど世の中を騒がせています。しかし、裁判ではこのスリップ痕とバス運転手が同時に写っている写真が存在することで、事故直後からスリップ痕は存在し「捏造の余地は無い」と判断されています。

もし、捏造でなく実際の痕跡ならば、この異様なスリップ痕が説明できる状況が存在するはずであり、その状況は急ブレーキではなく、多くの証言に沿う様な事故状況だったはずです。

この謎を解く鍵は、斜行スリップ痕さんの「バスが横滑りした痕跡では」という指摘でした。この指摘から発展し、前へ進みながら横滑りする状態をバスの角度も含めて考えることで、非常に近い状態を作り出せることがわかりました。

そして、衝突時の挙動特性から途切れたスリップ痕の意味がわかり、その位置関係もほぼ一致することになりました。この理屈が分かった時点で、私の頭の中に残っていた「スリップ痕捏造」の可能性はほぼ消えました。ブレーキ痕として捏造しようとして、たまたま横滑りを含むスリップ痕の痕跡に、挙動変化で発生する断続部分も含めて合致する可能性は非常に低いと思われます。

大きな手がかりはスリップ痕の途切れた部分です。この部分は実況見分には含まれていません。

図で表すと以下の様になります。

同様なスリップ痕が残せる可能性があるバスの軌跡

※1マスが50cm
※バスの大きさやタイヤ位置、タイヤサイズなどは、同型のISUZU GALA mioシリーズを参考
※白バイ衝突時点のバスは赤色、完全停止後は黒色で描画
※衝突時のバス角度は17度。完全停止後は7度
※衝突時のバス位置と角度は、実際のスリップ痕長さと形状に近い軌跡を前輪が残せ、バス後輪の動きに矛盾がでない位置とした。
※白バイの走行ラインはイメージ
※精密なシミュレーションではありません、正確にはタイヤのたわみなども考慮する必要があると思います。

10tのバスを横滑りさせる可能性

白バイ(300kg)が衝突した程度で、10tのバスを横滑りさせることが可能なのか?
直感的に無理だと感じる人の方が多いと思いますが、実は10tを動かす必要はありません

バスの前輪と後輪の加重配分は3:7ぐらいだそうです(バス乗りさん情報)
※この後輪寄りの加重の関係でバスの急ブレーキ時には後輪にブレーキ痕が残ることも多い様です。

バス先端に横からの衝突ですので、遠く離れた後輪は、軸となり前輪が円の軌跡を描いて横滑りする時の中心になります。デフギアがあるので回転差の抵抗もありません。横滑りするのは前輪のみです。つまり3tの加重のかかった前輪タイヤ(幅226mm)の両輪を横へ50〜60cm横滑りさせるエネルギーを、白バイの衝突が発生できればよいわけです。

※同時に後輪が駆動して前へ1.2m進む前提です。この時、前輪が横滑りしながら前にもずれる軌跡が上位の軌跡図になります。

こちらの側面衝突実験の動画をご覧下さい。
衝突安全性能試験結果…クラウン

台車の重量は950kg、速度は55km/h。
この台車の側面衝突によって1580kgのクラウンが4輪全てを横滑りさせ、2m以上横に移動しています。

単純計算だと、
台車が300kgだったら横滑りは1/3の65cm程度。
さらに、クラウンが3tだったら30cm程度の横滑りの可能性があります。

単純計算なので、実際に横滑りするかどうかは実証実験が必要だと思いますが、少なくとも理論上では横滑りの可能性は否定できません。さらには、白バイの速度が55km/hではなく、目撃者の証言する100km/hに近ければ、より可能性が高くなります。

単純計算の連続なので根拠としては弱いですが、 上の軌跡図では衝突から停止までのバスの横方向スリップ成分は、左前輪が60cm程度、右前輪が50cm程度です。55km/hで30cm横滑りの可能性があるので、100km/hなら55cm程度の横滑りの可能性が考えられます。気持ち悪いほど近い数字になります。

ネット上で参照できる論文として、
転倒滑走する二輪車と四輪車の衝突実験(大阪府警察本部科学捜査研究所)
があります(ぽさん情報)
この内容を見ても220kgの転倒滑走状態のバイクが四輪車を横滑りさせている結果になっています。

また、乗用車に比べてバスはタイヤの1平方センチにかかる接地圧が非常に高く、タイヤ空気圧も高いです。結果的に横方向のグリップ限界は乗用車より劣ります。

結論としては、横滑りの可能性は否定できず、実際に横滑りした場合はタイヤのグリップ限界が低いことで乗用車とは若干異なる段階で滑り出しが始まる可能性が考えられます。

横滑り程度で路面に黒い痕跡を残せる可能性

スリップ痕が拡大された写真をみると、アスファルトの凹凸の凹の中にまで黒い痕跡がついています。この様な痕跡の残り方はホイルスピーンの様なゴムが溶けた状態でないと不可能なのでは?という指摘を頂きました。

これに関しては実証実験をしないと不可能とも可能とも断定できません。

不可能と断定できない理由は、バスタイヤ接地面の1平方センチメートルの接地圧の高さです。バス前輪のタイヤは直径883mm、幅226mm程度。前輪に3tの加重がかかるので片側では1.5t、空気圧も極端に高いです。乗用車では同じ幅のタイヤで1.7t程度の車重、1輪あたり425kg程度、空気圧も低いです。

タイヤと路面が接地する部分の面圧はバスの方が3倍にもなります。この条件が横滑りを発生させた時にどの様な痕跡になるのか推測できません。ですので、現時点では乗用車と異なる特性の痕跡が残ることを否定できないという判断です。

※ネット上で参照できる類似の実験結果などがあれば教えて下さい。

スリップ痕の角度の謎

横滑りだけでは、スリップ痕はバスの後輪を軸とした円を描く形で残りますが、同時にバスが前へ動けば、左斜め前に向かってスリップ痕が残ることになります。

この状態で残るスリップ痕は、最終停車状態で見た場合、右前輪から後方やや右よりに伸びている痕跡になります。写真に残るスリップ痕もこの傾向です。

バスが動いてたかどうか?これは意見が分かれるとこです(動いてた説の人も多いです)。今回の仮説では私の考えに偏った「停止状態であったが衝突時にバスに駆動力が伝わった」というストーリーになっています。

裁判ではスリップ痕はブレーキ痕扱いです。衝突後にブレーキ痕が残っている、つまり衝突時に走行していることを証明する物証である。という前提で対向車線での白バイ隊員の目撃証言が信用できる、という判断になっています。

この仮説ではスリップ痕はブレーキの痕跡ではないとの前提ですので、スリップ痕自体は衝突した瞬間にバスが走行していたことの証明にはなりません(衝突後には前に1.2m動いています。これが元々走行していたのか、衝突後に動いたのか、物証から判断できる理論が現時点では不明です)。単に対向車線からの白バイ隊員の目撃とバス運転手や関係者の証言からの判断となり、ご存知の通り双方の証言は全く逆です(白バイ隊員の証言では走行中のバスが白バイをはね飛ばしたことになっていますし、バス関係者の証言では停車中の事故です)。どちらの証言が信憑性が高いかの判断になります。

証言がバス運転手一人のものなら信憑性は判断できません。しかし、この事故ではバスに乗っていた関係者、学生、後方で目撃したバス関係者など多数の人がバスが停車していたことを証言しています。これだけ大勢の一般人が完全なウソを証言するとは思えず、若干の勘違いがあったとしても停車に相当する状態だった可能性の方が高いと思われます。

根拠にもならないぐらい弱く考察も進んでいませんが、上の図を見るとこの形状のスリップ痕を残すには、衝突直後のバスの前方への移動量が少なくその後大きくなる必要があります。これは加速している状態になります。これが、停車状態から衝突の衝撃で一瞬クラッチペダルから足が浮き、その動力でバス後輪を駆動した、という可能性をほんの少し示している様に思います(私の推測です)。

※バスが等速でも横滑りの減速状態によっては上記の軌跡に近い痕跡が描ける可能性があります。現時点では根拠といえるほどではありません。

断続したスリップ痕の意味すること

なぜ、一度途切れるスリップ痕が発生したのか?

この謎を解く鍵は、歩くポンポコリンさんの「ロールセンターの違いで衝突時の挙動が異なるはず」という指摘でした。

こちらの側面衝突実験の動画をご覧下さい。
衝突安全性能試験結果…RX8
衝突安全性能試験結果…クラウン
衝突安全性能試験結果…ステップワゴン

RX8はロールセンターが低いです。側面衝突時の挙動は、やや左が沈みながら横滑りしています。

クラウンはRX8よりロールセンターが上です。側面衝突時の挙動は、まず右が沈むと同時に左が少し浮き上がり、その後、右が浮き上がると同時に左が沈み、そのまま横滑りしています。

ステップワゴンはクラウンよりさらにロールセンターが上です。側面衝突時の挙動は、まず右が大きく沈むと同時に左が完全に浮き上がり、その後、右が大きく浮き上がるのと同時に左が接地して沈んでいます。

バスはステップワゴンよりロールセンターが上なので、左右ロールとしては大げさになるはずです。ただし、バスの横スライド量は50cm程度だと思われるので、タイヤが浮くほどではないと思いますが接地圧が抜けた側はスリップ痕が残らないと考えられます。

上の軌跡図を見てください。
バスの動きは、赤、ピンク、緑、青、茶、黒で進みます。

赤  …両輪に薄めの痕跡
ピンク…右には痕跡が続き、左は無くなる
緑  …右は途切れ、左は濃く変化する痕跡
青  …右は濃く変化する痕跡、左は濃い痕跡が続く
黒  …両輪に濃い痕跡

動きを解説すると、衝突の瞬間に両輪に薄く痕跡が発生。車体が大きく右へロールし、右は痕跡を残し続け、接地圧の抜ける左は痕跡が消える。その後、揺り返す様に車体が左ロールし、接地した左は一気に濃くなる痕跡を残し、右は接地圧が抜けて痕跡が消える。さらにその後、再度車体が揺り返し軽い右ロールと供に揺れは収束。左は痕跡を残し続け、右にも痕跡が残りながら停車。

写真に残る断続のスリップ痕とほぼ合致します。

実証実験を行ったわけではないので、実際に思う様に痕跡が残るかどうかは不明です。
ですが、可能性を否定できないというよりは、実験を行う価値があるぐらい可能性が高まったと思えます。

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