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2007年12月29日

◎地方議会改革 そろそろ「森を見る」議論を

 石川県議会の政務調査費をめぐる見直し論議が決着せず、越年することになった。税金 をチェックするはずの議会が、自分たちがもらっている税金(政調費)の使い道を透明化する方法さえ決めかねているようでは先が思いやられる。

 政調費の領収書を一円以上にするか否かで時間を空費していては、木を見て森を見ない 議論と言われかねないだろう。県議会の議会改革推進研究会では議会発議条例を増やすための方策も検討されているが、そちらの方がむしろ本筋であり、「改革」の名にふさわしいテーマである。

 県議会だけでなく、市町議会でも政調費の領収書添付問題が論議されているが、住民が 目凝らしているのは議員報酬や政調費に見合った仕事をしているかどうかである。他の地域ではすでに本質論に踏み出した議会もあり、ぐずぐずしていては地方分権の流れに取り残されることを認識する必要がある。

 三重県議会は今月、年四回の定例会を来年から二回とする議員提案の条例改正案を可決 した。その分、会期は二倍の二百四十日程度となる。通年議会に近づけ、政策立案や監視機能の強化を図る狙いである。

 経費がかさみ、職員の負担増につながる懸念もあり、賛否両論が沸き上がったが、議会 出席時に議員に支払われる費用弁済を絞り込み、執行部側の議会出席者を見直すなどして決着した。会期を延ばすことで議論の質が問われることになるが、成否はともかく、思い切った改革には違いない。

 政府の第二十九次地方制度調査会は、地方議会改革について検討を始めた。その中で都 道府県や市町村の議会の質疑で、議員の質問を職員が作成したり、事前に答弁内容をすり合わせる実態があるかどうかを調査するよう総務省に求めた。

 地方分権改革推進委員会が十一月にまとめた中間報告でも、「地方が主役の国づくり」 の課題として「自治立法権を担う地方議会」の抜本改革に言及している。

 地方分権改革論議の方向は、地方自治の車の両輪の一つである議会に向けられ始めてい る。推進委の中間報告に盛り込まれた「地方政府」という新しい表現も、議会が行政追認のような仕事にとどまっていては現実的な響きは伴わないだろう。

◎日中首脳会談 言葉におぼれず着実に

 福田康夫首相が中国を公式訪問して行った日中首脳会談は、両国の関係改善がこれまで の遅れを一気に取り戻して加速する期待を抱かせた。首脳の相互訪問継続を確認したことをまず評価したい。ただ、日中間に横たわる歴史認識問題が克服されたとはいえず、「戦略的互恵関係」を構築する歩みは始まったばかりである。首脳会談では「アジアと世界の未来の創造のためにともに協力する」こともうたわれたが、理想的な言葉や高揚感におぼれず、はやらず着実に良い関係を築いていきたい。

 今回の福田首相の訪中では、中国側の配慮が目についた。温家宝首相との会談のあとに 首脳の共同記者会見が開かれたのは異例のことであり、福田首相の講演のテレビ中継といい、経済の安定成長のために日本との関係を重視する中国政府の姿勢をうかがわせる。

 会談の成果として、気候変動問題の科学技術協力の強化や青少年の交流促進などに関す る三つの文書に署名したことは、合意に無難なテーマとはいえ、評価できる。青少年の交流協力計画の中では、中国人民解放軍と自衛隊の若手幹部を相互に招聘することも明記された。

 中国海軍の艦船が先月、日本を訪れており、日中の防衛交流がさらに進むことになる。 日ごろの防衛協力は安全保障面の信頼を醸成し、偶発的衝突によるを関係悪化を防ぐために役立つ。しかし、防衛協力の意義や効果に幻想を抱いてはなるまい。中国の政権や軍の本質を見失わず、防衛費の透明性確保などはしっかり主張していく必要がある。

 懸案の東シナ海のガス田共同開発問題は、早期決着をめざす意思確認にとどまり、具体 的に進展しなかった。首脳会談前の事務協議では、中国側が日中中間線にまたがる海域での共同開発を認める一方、既に中国が単独開発を進めている「白樺ガス田」の扱いは棚上げにする妥協案が浮上したという。これまで否定してきた中間線の存在を認める点で中国側がかなり歩み寄ったようにも見えるが、これは当然のことである。白樺ガス田の棚上げは、中国の一方的開発とガスの供給開始を事実上容認することになり、日本にはなお受け入れ難い妥協案である。


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