中国進出企業の労働争議で露呈した韓国経済「日中サンドイッチ」の窮地=黒田勝弘
2007年12月28日 SAPIO
最近、中国からソウルに伝えられたニュースによると、上海に進出している韓国の紡績関連企業で、経営難から撤退の動きを見せたため、韓国人幹部8人が中国人労働者約1000人に集団監禁される事件が起きたという。この企業は1997年設立、1800人の中国人労働者を雇用していた。最近、人件費高騰などで経営難に陥り、整理に入ったが、給料遅配などで労働者の不満が高まり、監禁・暴行事件にまで発展したという。
労使紛争、経営者監禁・暴行……というと、つい20年ほど前のことを思い出す。1980年代末、韓国では民主化で労働運動や左翼運動が解禁となり、労使紛争が噴出した。とくに日系企業では反日感情を利用した争議が頻発した。労組の職場占拠で業務はマヒし、経営者に対する監禁・暴行が相次いだのだ。
ところが今、その韓国人が今度は中国で労使紛争から”監禁”される事態になっている。歴史の皮肉というか。
韓国企業も近年、国内での採算性悪化から、低賃金を求めて中国や東南アジアなどへ続々、工場の海外移転を進めている。その結果、現地での労使トラブルも増えている。
これまでトラブルの原因として目立ったのは、韓国人経営者が不満、怒りなどで現地従業員に手を振り上げるという”暴行”だった。善意に解釈すれば、韓国人によく見られる身体接触による本国流のパフォーマンス(?)だ。しかしこれが現地では人格無視、人種差別的として反発を招き、紛争に発展した。
しかし今回の中国での監禁・暴行事件は、企業撤退にからむ本格的な争議だ。韓国での最新の資料によると「中国に進出した韓国企業のうち40%が事業放棄」の状態だという。したがって今後、中国で似たような韓中労使トラブルが起きる可能性は高い。
韓国と中国は国交正常化から15年。今や韓国にとって中国は最大の貿易相手だ。観光客も日本を抜いて中国行きがトップになった。対中留学生の数も日本人の2倍以上という。韓国では全国いたるところで”中国語講座”が人気だ(ただ、漢字を捨てた現代韓国人たちは漢字に大苦戦しているようだが)。
中国在住の韓国人は早くも100万人に達する勢いという。お得意(?)の不法滞在も含むが、近年の韓国人の中国進出ぶりはすごい。韓国に近い山東半島の威海や煙台、青島にはハングル書きの韓国人商店でコリアン・タウンができている。北京でもコリアン街が生まれたと、テレビがやっていた。
韓国在住の華僑はわずか2万人そこそこで、中国の旧満州地域からの韓国への出稼ぎ朝鮮族でも、20万人ほどだ。今や韓国人の中国出稼ぎ(?)、つまり”在中韓僑”の方がはるかに多いのだ。
経済的に発展、膨脹する中国は、韓国人にとっては「機会の土地」に見える。この進出ラッシュは、歴史的には日本統治時代の1930─1940年代、日本の国策に乗って”満蒙開拓”などで中国大陸に進出した”満州ブーム”に次ぐものだろう。
しかしこうしたブームの一方で、このところ中国への警戒論が台頭しつつある。その一つが”日中サンドイッチ”論だ。「韓国経済は膨大な量の中国経済と高品質の日本経済の間にはさまれ、やがてつぶされてしまうだろう」という危機感だ。つまり「独自のモノを持たない韓国経済はやがて中国経済に飲み込まれる!」というのだ。
周知のように北朝鮮経済はもう完全に中国の支配下に入っている。次は韓国も。この危機感、イラ立ちは、ただちにこの地で伝統的な韓国・朝鮮流の”バランス外交”を誘発する。それが反米だったはずの盧武鉉政権の突然の米韓FTA(自由貿易協定)締結であり、北の金正日政権の対米接近というわけだ。
余談ながら、韓国の近年の対北経済支援も「北朝鮮の対中依存度を減らすための戦略だ」と韓国の当局者は説明している。
朝鮮半島情勢の現状は「中国牽制のため南北とも米国接近をやっている」と見ればわかりやすい。そのうち日本やロシアも利用しようとするだろう。2008年はそんな観点も頭に入れて朝鮮半島をウオッチしたい。(産経新聞ソウル支局長)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
この記事を読んだ人は、こんな記事も読んでいます。
小沢民主党代表を悩ませる国民新党「身勝手ジイさん」(週刊文春) - 2007年12月20日 |
大連立構想で出端くじかれた民主党保守派グループの蠢き(FACTA) - 2007年12月26日 |
飯島元秘書官が活動再開 「カムバック」は時間の問題か(FACTA) - 2007年12月27日 |