首相就任後初めて訪中した福田康夫首相は28日、北京で胡錦濤国家主席、温家宝首相らと会談し、日中関係の安定化を図ることで一致した。胡主席の来春訪日も確認した。関係改善の流れを定着させるものとして歓迎する。
福田首相が再延長国会会期中のあわただしい時期にあえて訪中に踏み切ったことは「戦略的互恵関係」を着実に実行していくうえで意味がある。昨年の安倍晋三首相訪中と今年4月の温首相訪日で復活した首脳交流は今回の福田首相訪中で軌道に乗った。福田首相の年末訪中に中国側が異例の厚遇で応えたのは、互恵関係強化に向けた双方の強い意思のあらわれとみることができる。
福田首相にとって11月の訪米に続く訪中は、「日米同盟とアジア外交の共鳴」という外交方針を具体化させるスタートでもある。首相には、日本外交が目指すのは「米国かアジアか」の二者択一ではなく、日中関係の発展はアジア全体と日米中3カ国の利益にもなるという認識を中国側と共有したいとの思いがある。
福田首相が「大局を見据え、アジアと世界の未来の創造のために、ともに協力していきたい」と述べ、温首相は「中日関係に春が来た」と応えた。関係発展のチャンスを具体的な形で生かしていくことを望む。
双方は環境、安全保障、経済など幅広い分野で協力を進めることで合意した。中国国内での「省エネ・環境協力センター」設置や、今後3年間での中国人1万人研修の実施などは「戦略的互恵関係」具体化の一環だ。気候変動問題で京都議定書後の枠組み作りに中国が積極的に加わることへの呼び水になることを期待する。
小泉政権当時、両国の政治関係は歴史認識や靖国問題で冷却化し、国民感情も悪化した。関係発展を確かなものにするには国民レベルでの相互理解を深めていくことが不可欠である。
福田首相は北京大学で行ったスピーチで、過去の歴史をしっかり直視し伝えていくことが我々の責務だと訴え、「ともに未来をつくろう」と呼びかけた。この模様はテレビで中国全土に中継された。温首相が日本の国会で、中国政府は日本の反省と謝罪を評価している、と述べたことに応えたものだ。
福田首相は滞在中に、孔子の故郷である山東省曲阜を訪問する。温首相も訪日時に京都を訪れている。
両国のトップがこうした歴史認識を表明し合い、互いの文化を尊重する姿を示すことは双方の国民感情の好転に役立つはずだ。
懸案の東シナ海ガス田問題は具体的な進展が先送りされた。しかし、こうした困難な問題に対して双方が冷静に対処する姿勢をみせていること自体に意味がある。未来志向の関係は協調の精神なしには築けない。
毎日新聞 2007年12月29日 0時03分