◇取材のあり方考える
田原本町で母子3人が死亡した放火殺人事件をテーマにした単行本「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)を巡り、奈良地検が秘密漏示容疑で強制捜査に着手したのは、今年9月だった。
殺人などの非行事実で中等少年院送致となった長男(17)を精神鑑定した医師・崎浜盛三被告(49)が刑法の秘密漏示罪で起訴され、著者の草薙厚子さんは、嫌疑不十分で不起訴処分となった。
草薙さんは、長男が診断された広汎性発達障害に対する世間の誤解を解き、報道でゆがめられた親子関係などの事実を正すことなどが出版の目的だと主張していた。
しかし、長男の供述調書をほぼそのまま単行本に引用、長男や家族のプライバシーを侵害した出版・表現手法を捜査当局は問題視、取材対象者が起訴される事態を招いた。
草薙さんの単行本は、取材源が明らかになってしまった点でも問題があり、遺族の期待に沿うものでもなかった。取材源の秘匿が大前提である記者として、今回の調書流出事件は改めて取材のあり方を考えさせられた。【阿部亮介】
毎日新聞 2007年12月28日