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造形作家の夢奪った飲酒車

2007年12月28日

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自作のイスに座る生前の寺田さん。ホームページには「特技 笑顔」と記されている=瀬下黄太さん提供

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事故でフロントガラスが大破した車=久留米市東櫛原町の久留米署で

 忘年会帰りの飲酒運転による交通事故で今月15日、久留米市内の造形作家が亡くなった。今年夏、念願の工房を立ち上げ、将来への夢を膨らませていた矢先だった。飲酒運転を嫌い、許さなかったという被害者。突然の死に遺族や友人は「あまりに理不尽。本当に悔しい」と悲嘆に暮れている。(奥村智司)

 亡くなったのは久留米市小頭町の造形作家、寺田太郎さん(46)。15日午前1時ごろ、同市原古賀町の国道209号で、横断歩道のない所を歩いて横断中に車にはねられ、頭を強く打って死亡した。帰宅途中だった。

 久留米署の調べでは、車を運転していた筑後市の会社員(34)は、久留米市内の居酒屋であった会社の忘年会を終え、知人の家に行く途中だった。会社員からは呼気1リットルあたり0・2ミリグラムのアルコールが検出され、同署は道交法違反(酒気帯び運転)と自動車運転過失傷害の疑いで現行犯逮捕し、同過失致死に切り替えて調べている。会社員は容疑を認め、「反省している」と供述しているという。

 寺田さんは福岡市出身で24歳から鉄を材料にした造形美術を始め、インテリアや看板の制作を手がけてきた。今年7月、弟でデザイナーの瀬下黄太さん(42)と知人の造形作家の3人で佐賀県吉野ケ里町で、ギャラリーやカフェを備えた共同の工房をオープンさせた。

 仕事を精力的にこなし、来年に向けた企画や注文が多く舞い込んでおり、「吉野ケ里にアーティスト村をつくりたい」と夢も広がっていたという。

 妻の千乃(ゆき・の)さん(34)によると、寺田さんは人一倍、飲酒運転に厳しく、飲酒運転による事故をニュースで見て「まだこんなことが起きるのか」と憤っていたという。

 工房のオープニングイベントに訪れたお客が酒を飲み、「近くの温泉で酒を抜いて帰るから大丈夫」と車に乗ろうとすると、「ダメだ」と強く引き留めて屋外に設けたテントに泊まってもらった。

 事故が飲酒がらみだったと聞いた瀬下さんは「怒りで声が出なかった」と振り返る。

 瀬下さんの妻美和さん(36)は「これから輝くはずの人を亡くして残念。事故は義兄ばかりでなく周りの夢もすべてさらってしまった」と語り、「代行タクシーの料金や翌日に車を取りに来る手間。そんなことのために人の命を危険にさらしてハンドルを握ることが許されるのか……」と声を詰まらせた。

 千乃さんは「とても愛していました。悲しみが日に日に大きくなっています」とつぶやいた。

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