<医療カルテ~九州・山口発>
◇睡眠3~4時間/出産後休暇取れず/離婚も
「常勤の仕事はもう続けられない」--。九州の大学病院に勤務する30代女性外科医は今月、激務から離れ、育児に時間を割くため、大学院への進学を決めた。3児の母。早朝から夜9時まで働き、月6~7回の当直をこなす。妊娠中も外来と病棟、手術室を駆け回り、切迫早産した。
「育児、家事と仕事の両立は厳しい。当分は研究しながら大学に残り、臨床に戻る道を探りたい」。話しながら、ため息が何度も出た。
女性医師の過酷な生活実態は、全国保険医団体連合会(保団連)が4~5月、全国の医師約8400人を対象に実施したアンケートにも表れた。回答欄に女性医師の“悲鳴”が並んだのだ。
「医師同士で結婚したが、夫は仕事中心。家事、育児に協力が得られず、女性として孤独な戦いをしている」「医業、子育て、親の介護。女性医師の苦労は男性の何倍もあり、しんどい」「家事と仕事をこなそうとすると、睡眠は3~4時間あるかどうか」……。調査担当の職員は「みな精神的に追い込まれている」と嘆いた。
「仕事」を優先させるため、離婚を選択した女性医師もいた。逆に、出産や夫の転勤を機に、医師になっても数年で退職する女性医師も多い。
厚生労働省によると、医師全体に占める女性の割合は16・5%(04年)だが、20代医師では35%。特に医師不足が指摘される小児科と産科で女性医師は多く、20代では5割を超える。女性医師が働き続けないと、医師不足が進む仕組みだ。
しかし、各都道府県医師会の調査では、育児休業取得率は軒並み1~2割台。一方、女性勤務医の間では「出産で1年休めば医学の進歩についていけなくなる」という声も。「休みたいのに休めない」だけでなく、「休めるのに休めない」という実態も透けて見える。
熊本市の医師、板井八重子・保団連女性部長は語った。「国は医師不足対策として医学部定員を増やしているが、医師養成には10年かかる。それより女性医師を辞めさせない方が合理的だ。女性医師にとって何が障害か調べ、改善したい」
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毎日新聞の全国調査(25日に掲載)で、医師が「足りている」と答えた都道府県はゼロだった。医師不足対策として注目される女性医師支援には33道府県が取り組んでいるという。女性医師の現状を探った。
毎日新聞 2007年12月28日 西部朝刊