「2007年医療・介護重大ニュース」8
第8回「医療事故の調査委員会の創設」
相次ぐ医療事故を受けて、医療事故の死亡原因を公平・中立な立場で調べる第三者委員会の創設が急がれている。厚生労働省は今年4月に法律や医療の関係者などを委員とする検討会(診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会)を設置。同省は12月27日、委員会に届け出るべき死亡事案の範囲を検討会に提示したが、意見はまとまらなかった。「警察とは別の公平・中立な第三者組織をつくる」という総論部分では一致しながらも、医療機関が委員会に届け出る範囲や届け出を怠った場合のペナルティーの内容など、制度設計の各論部分では“出口”が見えない状況となっている。(新井裕充)
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死亡事故の原因究明に第三者機関 (2007/04/20) 手術後に患者の容態が悪化して死亡するなど診療行為に関連して予期せずに患者が死亡した場合、管轄の警察署とは別の第三者委員会に届け出る仕組み(調査委員会)について、厚労省は10月に「第二次試案」を示し、国民から広く意見を募集した。
しかし、医療関係者などから「萎縮医療を招く」「責任追及を目的とする制度」といった批判が殺到。厚労省は、12月21日に自民党の検討会が取りまとめた「新制度の骨格」を踏まえて12月27日、委員会に届け出るべき死亡事案の範囲を死因究明検討会に示した。しかし、ここでも意見はまとまらなかった。
調査委員会の創設をめぐる現在の焦点は、委員会に届け出るべき死亡事案の範囲。病院内で患者が死亡し、それが「異状死」である場合には管轄の警察署に届け出ることが医師法21条で定められている。
しかし、「異状死」とはどのような死であるのかが不明確であるため、これを明確化する動きがあった。日本法医学会が2002年に「異状死」の範囲を示したが、診療関連死を含んでいたため医療関係の学会が反発。「異状死」について、いまだ明確な定義はない。
異状死の届け出義務を定める医師法21条は、明治時代の医師法の規定を受け継いでおり、警察への捜査協力を求める規定と言われている。
例えば、ビルから転落して重傷を負った患者は病院に救急搬送されることが多いため、死亡した場合に警察に届け出ることを義務付けて「自殺」か「他殺」かを調べるなど、捜査協力や治安維持が医師法21条の本来の趣旨と考えられる。
しかし、警察や裁判実務では届け出の範囲をさらに広げて、医療ミスによって患者が死亡した場合にも、警察署に届け出る義務が医師にあるという考え方に立っている。だが、死亡の時点では医療ミスかどうか明らかではない場合も多いため、異状死の範囲を明確にしないまま「過失」の判断を医療従事者に求めることは「現場を混乱に陥れる」との批判が絶えない。
また、医師らの過失が不明な診療関連死を届け出ることは、自己に不利な証拠をわざわざ「自白」することにつながるため、これは「自己に不利益な供述を拒否する権利」(自己負罪拒否特権)を基本的人権として保障した憲法38条1項に違反するおそれがあることも指摘されている。
このように解釈や運用の仕方によって問題のある医師法21条だが、国は医療現場の過失を処罰する方向で動いている。
最高裁判所は2004年4月、都立広尾病院の担当医師らに対し、医師法21条違反の有罪判決を下した。最高裁判決という“お墨付き”を得たからだろうか、同年12月、福島県立大野病院で帝王切開した20代の女性が死亡した事件で、担当医師が業務上過失致死と医師法21条違反の疑いで逮捕された。この事件は現在係争中だが、その後の医療現場に与えた影響は大きい。
今後、政府や厚労省は「異状死」や「診療関連死」について幅のある範囲設定をしたまま、警察捜査に類似した調査委員会の創設に向かうことも予想される。
更新:2007/12/28 キャリアブレイン
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