憲法を歩く 施行60年
第4部は「貧困と労働」の現場ルポ
【社会】『糖尿病悪化は過労死』 労災認定求め東京地裁に 記者の遺族、国提訴へ2007年12月28日 朝刊 時事通信社の政治部記者だった森田一樹さん=当時(36)=が一九九七年に亡くなったのは過労死だったとして、父一久さん(77)=岡山市=が二十八日、国を相手に、労災認定して遺族補償を支給するよう求める訴訟を東京地裁に起こす。森田さんの直接の死因は糖尿病の合併症だったが、糖尿病の急激な悪化と過重な労働との因果関係が認められれば、初のケースになるという。 訴状などによると、森田さんは当時、首相官邸を担当。激務の中、九七年五月末から、のどの渇きや頻尿が続き、六月一日に吐血。東京都内の病院に救急搬送されて入院したが、二日後に死亡した。死因は糖尿病の合併症の「糖尿病性ケトアシドーシス」とされた。 ペルー大使公邸人質事件や首相外遊の同行取材などで、森田さんの死亡前の半年間の時間外労働は、一カ月の平均で百三十四時間に上った。 遺族側は九九年、糖尿病が悪化したのは過重な業務が原因で、過労死に当たるとして労災申請したが、中央労働基準監督署は認めず、東京労災保険審査官への審査請求も退けられた。再審査請求も今年七月、長時間労働の事実や仕事上のストレスが血糖値を増加させた点は認めたものの「六月一日以前に受診していれば予防できた」と棄却されたため、提訴に踏み切ることにしたという。 厚生労働省は「糖尿病は生活習慣上の問題で、労災にはなじまない」との見解。生活習慣病に基づく脳や心臓の疾患でも仕事との関連があれば過労死と認められるが、対象は脳出血や脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などに限られている。 ぜんそくの悪化で死亡したケースでは、行政で労災が認められず、民事訴訟で悪化と過重業務の因果関係が認められた事例がある。 原告代理人の弁護士は「糖尿病の急激な悪化との因果関係も認められれば、初の判断になる」と話している。 死亡後に届いた『要精密検査』通知ペルー日本大使公邸人質事件取材など、死亡前の半年間、森田さんは特に多忙を極めたという。総労働時間は月平均二百八十四時間に及び所定労働時間の倍近くの長さだった。九七年五月末、所用があって上京した両親は、一年ぶりに会う森田さんが、げっそりとやせ、人相が変わっているのに驚いた。亡くなる三日前の土曜も朝から出勤し、帰宅したのは、深夜になってから。翌日、水を飲んでは嘔吐(おうと)を繰り返す姿を見た母親が、糖尿病ではないかと尋ねると「そうかもしれない」と答えたという。 その日、森田さんは入院。両親は病院に付き添った。父親は、六月二日未明に帰る際「早く検査してくれるよう頼んでくれ」と言われたという。その言葉が息子との最後の会話だった。 森田さんは五月半ばに受けた健康診断で、肝機能や糖代謝に異常が見つかり、「要精密検査」と判定されていた。しかし、結果が通知されたのは死亡した後だった。原告代理人の弁護士は「知らされていたとしても、糖尿病の合併症になるとまでは予測できなかったはずだ。過重な労働や精神的ストレスで急激に悪化したのは自明だ」と主張している。
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