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知らぬ間に養子縁組 戸籍名変えられ、悪用の恐れも

2007年12月27日

 知らない間に養子縁組届が出され、戸籍名を変えられた――。そんな被害が相次いでいる。大阪市の男性会社員(33)は今秋、戸籍名を変えられ、その名前で国民健康保険証をつくられた。来年には改正戸籍法が施行されるが、どこまで不正を防げるかは未知数だ。

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 「養子縁組届を受理しましたので、お知らせします」。この会社員は10月上旬、東住吉区役所から郵送された「お知らせ」に目を疑った。自分が堺市西区在住の男性(70)の養子になっていたのだ。養父になった男性も「こちらもびっくりしている」。

 会社員が調べると、男が東住吉区役所の窓口を訪れ、養子縁組届や戸籍謄本を提出し、同じ日に大阪府最南端の岬町に住所を移していた。縁組届は当事者以外の第三者でも届け出ることができるが、縁組届の署名は会社員の字ではなく、実在しない住所が記されていた。父親の名前も間違っていた。

 窓口の職員は住所や名前の誤りに気づいたが、男に聞いて欄外に書き直し、「形式的に書類は整った」として受理。窓口に来た男の身元確認はしなかった。大阪市市民局は「法務省からの通達で第三者の場合は確認をしなくても差し支えないとされている」と説明する。縁組翌日には、岬町の役場に何者かが転入届を出し、縁組で変わった名前で国民健康保険証の交付を受けていた。手続きには偽の委任状が使われていた。

 会社員は東住吉署に被害届を出し、大阪家裁堺支部に縁組の無効確認を求める調停を申し立てた。一度、受理された縁組届は、家裁による縁組の無効確認の審判か判決がなければ元に戻せない。約10万円の弁護士費用は自腹だった。東住吉区は会社員の問い合わせに「過失はなかった」と回答している。

     ◇

 今春、成立した改正戸籍法には事前手続きをすれば、本人以外の届け出を受理しなくなる制度が盛り込まれた。ただ、事前手続きがなければ届け出は第三者でも可能。届け出人に身元確認を求めることになったが、「身分証明書を忘れた」などと言われれば、届け出受理を拒めない。

 法務省は「受理後に本人に通知がいくので、偽造の届け出の抑止効果はある」と説明するが、受理してしまうと役所では戸籍を元に戻せない。

 立命館大法科大学院の二宮周平教授(家族法)は「届け出書面に誤りが見つかった場合は、当事者に確認をしてから受理すべきだ。当事者が窓口に出向いて届け出る『出頭主義』も検討していく必要があるのではないか」と指摘する。

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