早い話が

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早い話が:アジアの角さんたち=金子秀敏

 田中角栄元首相は「コンピューター付きブルドーザー」と言われた。公共事業ばらまきの政治が歓迎されたころだった。「雪の降らない東京の人間なんかに雪国に暮らす者の気持ちがわかるかッ!」。地元の集会で獅子吼(ししく)する角さんの声が耳の底に残っている。

 韓国の次期大統領に選ばれた李明博(イミョンバク)氏のニックネームは「コンプル」。日本語に訳せば「コンピューター付きブルドーザー」。大手ゼネコンの会長からソウル市長に当選し、大型の土木事業で名を上げた。株価操作疑惑をライバルから攻撃されたが圧勝した。

 アジアは角栄型政治の時代になったのか。タイの総選挙でもタクシン前首相派の「国民の力党」が圧勝した。昨年秋、軍部のクーデターでタクシン氏はタイを追われ、ロンドンに居を構えている。開票日は香港にいた。来年は帰国すると語った。復権を目指す。

 かつてタクシン氏を日本のメディアは「タイ版角栄」と形容した。「イサーン」と呼ばれる貧しい東北地方に公共事業をばらまき、農家の所得向上をめざした。イサーンは貧しいが大票田である。タクシン氏の与党、愛国党の有力な地盤となった。

 一方で、タクシン氏には不透明な株や土地の取引に伴う疑惑がつきまとった。今回の総選挙は軍政から民政へ復帰する手続きだった。国民は、旧愛国党から国民の力党へ移ったタクシン派議員を当選させた。うさんくさかろうとやっぱりタクシン派党が強い。

 失脚したタクシン氏が来日したことがある。東京でニシキゴイの品評会があった。タクシン氏の子息がニシキゴイ愛好家で、品評会で稚魚を買い、新潟県のコイ業者に飼育を委託している。それに同行してきた。

 成田の税関で「特別な部屋にご案内します」と言われたそうだ。取調室だった。帰りの航空券は持っているのか、所持金はいくらかなどと、不法入国者扱いだった。日本に亡命させないぞという脅しと受け取った。「この仕打ちは、絶対に忘れない」とタクシン氏が言ったのを聞いた人から聞いた。

 タクシン氏は、北京にも活動拠点がある。祖先は中国広東の客家だ。トウ小平氏もシンガポールのリー・クアンユー上級相も同じ客家。東南アジアの華人系富豪にも多い。タクシン氏の背後には世界的な客家の組織がついている。日本人は目先のことで手のひらを返すが、中国も英国も懐が深い。取調室に入れて怒らせるようなことはしないに違いない。(専門編集委員)

毎日新聞 2007年12月27日 東京夕刊

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