キャラビジネス進化論!

2007年テレビ新作、セルDVDランキング上位に姿なし
〜“冷や水”を浴びたアニメ業界

AT-X取締役、中村直樹氏に聞く

 同社は、2007年11月に発売したパチンコ機「CRフィーバー創聖のアクエリオン」のリリースに合わせて、数十億円規模となる大量のCMを投下。その結果、ここ最近のパチンコ機市場では、まれに見る「10万台を超えるヒットとなった」(関係者)という。

 そして売れたのはパチンコ機だけではない。CMに使われた主題歌もチャートを急速に駆け上り、iTune stores では何とトップを獲得。さらに、2008年1月に発売予定のDVD-BOXも、流通からの引き合いは上々の模様だ。

 今回の「アクエリオン」にかかわる一連のヒットは、「今までのパチンコ、パチスロ機のキャラクター利用とは違う」と中村氏は分析する。

 「以前は大ヒットした作品やキャラクターの力でパチンコ店への集客を図る動きが一般的だった。しかし、『アクエリオン』の場合、放映当時それほどヒットしたわけではない。むしろ、パチンコ機への採用をきっかけに音楽や映像などの“原作コンテンツ”に注目が集まるという逆転現象が起きている。これまでもパチンコ・パチスロ機を見て、映像作品に興味を持つケースはあったが、今回は各コンテンツのセールスが従来になく上手に連動している」

 こうした機動的な動きが取れたのには理由がある。2006年、SANKYOは「アクエリオン」を制作したサテライト(東京・杉並)へ資本参加し、グループ企業にしているのだ。ちなみに、同社は『マクロス』シリーズなどで有名な河森正治監督が所属するスタジオだ。この資本提携によって、SANKYOは自社のコアビジネスであるパチンコ機向けに、サテライトを使いハイクオリティの映像制作が可能になったことに加え、同社が生み出す映像コンテンツがヒットすれば、グループとしてメリットを享受できる。

 「SANKYOがサテライトを自社グループに取り込んでコア事業(=パチンコ)を強化したように、総合的な見地に立って映像ビジネスを考える時代が来た。この流れは、我々のような、これまで制作部門を持たなかったCSアニメ専門チャンネル会社にも関係する問題だ」と中村氏は語る。

アニメ専門チャンネルの契約者は増加、一方でコンテンツ不足の影が

 現在、CSアニメ専門チャンネル各社の契約者獲得の状況は順調に推移している。この背景には、地デジ対応薄型テレビ購入の本格化が挙げられる。

 基本的に、そうしたテレビには地デジチューナーに加えて、BSデジタル放送と東経110度CS放送の“e2 by スカパー”のチューナーも搭載。このためWOWOWやNHKなどのBSアナログ放送を見ていた層が、テレビの買い替えを機に、“e2 by スカパー”の各種チャンネルにも加入する動きが増えているのである。

 「AT-Xの契約数も、東経110度CS放送の視聴者が貢献し好調。今年で開局から10年目となるが、契約数もほぼ10万人となった」(中村氏)。

 AT-Xに限らず、キッズステーションやANIMAXなどのCSアニメチャンネルも、従来の東経124/128度CS放送に加え、e2にも展開しており、会員数は伸びている。しかし、好調なアニメ専門チャンネルにも隠れた問題があるという。

 それは、近い将来アニメを放送するチャンネル数に見合うだけの、新作コンテンツの供給ができるのかどうか、先行きが不安なことだ。

 現在、専門チャンネルだけで6つあり、それ以外でもアニメを放送する事業者がある。一方、市況の悪化から新作の大半を占めるセルDVD向けの作品制作が減るようになれば、新しいコンテンツの供給は先細りすることが考えられる。この問題が深刻なのは、現在のDVD市況が簡単に改善できる見込みがないことだ。

 今後、国内では地デジやBSデジタル放送により、鮮明なハイビジョン映像をハードディスクレコーダーやブルーレイディスクなどへ簡単に記録することができるようになる。さらに、録画したデータは「ダビング10」対応の可能性もある。こうなると、「アナログ地上波やCS放送の映像品質では満足できないからDVDを買う」という層が少なくなることは必至だ。

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筆者プロフィール

中村 均(なかむら・ひとし)

1991年日経BP社入社。半導体分野の雑誌を担当の後、ベンチャービジネスやコンテンツ・ビジネスに関する調査・研究部門、ブロードバンドビジネスのWebニュース部門、日経キャラクターズ!編集長、東京ゲームショウのプロデューサーなどを担当。コンテンツ分野では『アニメ・ビジネスが変わる』『進化するアニメ・ビジネス』などを執筆(いずれも日経BP社刊)。

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