キャラビジネス進化論!

2007年テレビ新作、セルDVDランキング上位に姿なし
〜“冷や水”を浴びたアニメ業界

AT-X取締役、中村直樹氏に聞く

海外市場は早くも苦境に

 そして海外市場でのアニメDVD販売も厳しく、数年前まではリクープ(製作費回収)の大きな柱だった海外向けDVD化権販売収入はそれほど期待できない。

 2000年以降、米国への作品投入が急激に増加した反動からなのか、「米大手流通が日本のアニメDVDに関しては、一部のシリーズを除いて映画以外のテレビ作品の取り扱いを見合わせると宣言した。この結果、日本側にMG(ミニマムギャランティ、最低保証使用料)を提示するのが困難になっている」(米国ビデオ流通関係者)。

 こうした状況から見て、いずれビデオメーカー頼みの新作の調達は、一部の人気シリーズを除いて難しくなるだろう。

 「このままでは新作アニメのコンテンツ不足は避けられない状態になる。もしも新作がないからといって、過去のライブラリーばかり流すようになったら、視聴者に飽きられ、契約も減る恐れがある」と中村氏は予想する。

作品制作にコミットしたビジネスモデルへの転換

 では、この問題を解決するために、どうしたら良いのだろうか。

 「自社のビジネスの中で、作品づくりをどう位置づけるかが重要なポイントとなる」と中村氏は言う。

 これまでCSのアニメ専門チャンネルは、放送する番組のほとんどが地上波などで放送済みのライブラリー作品。従って、コンテンツの調達コストを非常に低く抑えることが可能だった。これができたのもビデオメーカーがリスクを負って、作品を大量に作っていたからだ。だが、そうしたビジネススキームが通用しない時代になろうとしている。

 「そうなる前に、CSアニメ専門チャンネルの放送事業者をはじめ、ブロードバンドビジネスを推進するNTTなどの通信事業者も、もっと新作の映像制作を自社で手がけるべきだろう。さらに突き詰めると、私としては将来的に自社内部にアニメの制作機能を持ちたいと考えている。我々にとっての1次利用、つまり放送事業そのもので、アニメビジネスが成立する仕組みを作りたい。こういうスタイルになれば、賃金が低いと言われている制作現場のクリエーターの人たちにとっても、健全な環境になるはずだ」(中村氏)

 放送事業者が、自社(グループ)内に、アニメ制作部門を持つというのは新鮮な発想だ。日本テレビとスタジオジブリの関係が、この考えに近いかもしれないが、中村氏が言うような、テレビシリーズを恒常的に作るレベルにまで踏み込んでいない。

 だが、放送事業者以外では、アニメ制作部門を、それぞれのコア事業のために、自社あるいはグループ内に取り込み、活用する動きが増えている。

バンダイグループがサンライズのグループ化で得た果実

 その中でも最大の成功を収めているのは、バンダイナムコグループだ。

 同グループは、多大な収益をもたらすキャラクター「機動戦士ガンダム」を制作するサンライズを、玩具ビジネスのために1994年に自社グループ(当時はバンダイグループ)に組み入れた。

 その結果、「ガンダム」関連の商材はプラモデルをはじめ、映像パッケージからゲーム、アパレルまで、ほとんどを同グループ内で開発・販売できる体制になった。そして、2006年度のキャラクター別実績では、グループトータルで545億円もの金額を売り上げるに至った。

 ビデオメーカーでも、同様の動きが出ている。ソニー・ミュージックエンタテインメントグループのビデオメーカーであるアニプレックスは、制作機能を自社グループ内に持つために、アニメ制作会社のA-1Picturesを2005年に設立した。Amazon年間ランキング11位の「おおきく振りかぶって」は、同スタジオの制作だ。アニプレックスは本作のDVDやCDを販売している。

 同様に、前出のパチンコメーカーSANKYOの動きも、パチンコという本業を成長させるために、アニメ制作部門としてサテライトをグループ企業化したということだろう。

 一方、海外に目を向けてみれば、ウォルト・ディズニー社というアニメを軸に映像からテーマパークまで多様なビジネス展開を行う“わかりやすい事例”が存在している。同社は、もともと自社グループ内にスタジオ機能を持っていたが、各種事業をより強化するために、3DCG映画「トイ・ストーリー」などを制作するピクサー・アニメーション・スタジオを、2006年に子会社化している。

 このように、かつては資本関係のないアニメスタジオから、放映権や商品化権、DVD化権などの各種ライセンスを購入していた方式から、自社(グループ)のコアビジネスを強化するために資本参加したり、新しく制作会社を設立するなどして、アニメ制作機能を持つ企業が増えている。

 こうした流れを見ても、AT-Xの中村氏が言うように、これまで制作部門を持たなかったアニメ関連企業が、その機能を内包化することは、今後の成長に必要な条件の1つになるのではないだろうか。

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筆者プロフィール

中村 均(なかむら・ひとし)

1991年日経BP社入社。半導体分野の雑誌を担当の後、ベンチャービジネスやコンテンツ・ビジネスに関する調査・研究部門、ブロードバンドビジネスのWebニュース部門、日経キャラクターズ!編集長、東京ゲームショウのプロデューサーなどを担当。コンテンツ分野では『アニメ・ビジネスが変わる』『進化するアニメ・ビジネス』などを執筆(いずれも日経BP社刊)。

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