注目中国企業(5)−内田俊彦
米大手ビジネス雑誌『ビジネスウィーク』が発表した「2007年アジア急成長企業トップ100」では、「味千(中国)控股有限公司」が堂々のトップにランクされました。「味千」は2007年3月に香港の証券取引所に上場した中国国内に180店舗(07年11月末現在)を有する企業です。
◆「味千ラーメン」の中国進出
「味千ラーメン」(及び同チェーンを運営する重光産業)の発祥地は九州の熊本で、創業は1968年。その特徴は、豚骨だけでなく様々な魚の骨をも長時間煮込んで作ったバイタンスープにあります。人体の骨髄のカルシウム補充にきわめて重要な“軟骨素”が大量に含まれているこのスープは、創業者の重光孝治が唱える「健康を考え、身体によい食品を作る」という理念をそのまま実践したものです。そんな「味千」は、熊本を中心に約108店舗(07年10月31日現在)を展開しているとはいえ、日本国内ではまだまだトップグループを追いかける立場です。それがラーメンの本場中国では業界のリーディングカンパニーになれたのはなぜでしょうか。
味千中国は1996年、熊本の重光産業が運営する「味千拉麺」チェーンのフランチャイズ権(中国、香港の代理権)を取得し、香港の銅鑼湾(コーズウェイベイ)に1号店を開業しました。その後1998年から中国本土に進出、直営店主体で深センや上海に相次いで出店し、現在は香港と中国本土に合計180店舗を展開しています。その間、同社の「味千」ブランドを保護するために関係当局で商標登録を済ませたことはいうまでもありません。
さらに味千中国は2010年までに店舗数を300店にまで一気に拡大する方針を掲げています。中国をよく知る日本人の間では「中国に美味しいラーメンはない」と囁かれていますが、北京や上海などの都市では「日式ラーメン」のブームが続いており、日本ラーメンの存在感は着実に大きくなりつつあります。中国で日式ラーメン店を経営している日系企業は約20社あると言われていますが、いずれブレークする中国の日式ラーメン市場で「味千ラーメン」がどこまでナンバーワンの座を守り続けられるか、日本人ならずとも気になるところです。
◆「英断」だったサイドメニュー戦術
日式ラーメンといっても、中国の「味千」店舗は日本の店舗とちがって200席ほどの客席を備えた大型のもので、焼き鳥、冷奴など40種類近くのサイドメニューが用意されています。ですからラーメン店というよりも、「ラーメン居酒屋」あるいは「ラーメンレストラン」と呼んだほうがいいかもしれません。何種類もの豊富な料理を目の前にしながら食事をする習慣が根づいている中国では、ラーメン単品で勝負するのは難しいという判断に基づく施策です。日本流にこだわり続けることなく直ちに現地の特徴に応じた戦術に切り替えたことが、その後の「味千」の急成長をもたらしたといっても過言ではありません。英断とはまさにこのことでしょう。
「味千」にはフランチャイズ展開へのこだわりもあります。加盟店のオーナーやそこで働く人材のモラルが低ければ顧客満足が得られないことを知っている同社は、その事業に関わるすべての人間がモチベーションを維持・向上するために必要な措置を講じています。徹底した「現場第一主義」がそれで、主体性をもって現場の仕事に取り組む意識を関係者の頭に植えつけるだけでなく、現場には大きな権限を与えて、成果を挙げれば正当な評価でこれに報いています。そんな企業カルチャーも「味千」の急成長を支えているのです。
中国に進出した日本企業のなかには、細かいルールで現場を縛りつけたり前例に従うことを重視しすぎたりするために人材を活かし切れないケースが見受けられます。しかし「味千」は、そんな日系企業を反面教師にしたかのように中国での成長を続けているようにみえます。(執筆者:内田俊彦)
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