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「持つ喜び」の演出

 あるビルのエレベーターでのこと。「ピロン」とiPhone特有のテキストメッセージ到着の通知音がしたので、チェックするためにポケットから取り出すと、たまたま乗り合わせていたスーツの男性も同じ行動をしている。結局それは、その人のiPhoneに入ったメッセージだったのだが、その人はiPhoneから私に目を移すと、「あなたも(iPhone)ですか」と、少し照れくさそうに、でもとてもうれしそうに笑いかけて来る。それは、iPhoneを持つ人たちの間で交わされる「持つ喜び」の共有。

 iPhoneの販売台数が延べで500万台を越したらしいが、最近のアップルのすごさは、ひたすらこの会社のこの「持つ喜び」の演出能力の高さにある。

 マイクロソフトとアップルはしばしば横並びでライバルとして比較されることがあるが、XBoxのような例外はあるものの基本的にはマイクロソフトは「企業向け」のソフトウェアを売る会社、アップルは「一般大衆向け」のハードウェアを売る会社。根本的な部分が大きく異なる。

 その意味では、アップルをもっとも脅威に感じているのは、ソニー。数あるコンシューマー・エレクトロニクスの商品のうち、パソコンと携帯型音楽プレーヤーと携帯電話しか売っていないアップルの株価総額が、そういったものに加えてテレビ・デジカメ・半導体・ゲーム端末まで何千・何万種類もの商品を売っているソニーの株価総額の3倍以上あるということは一体何を意味するのか。

 今年の始めに、Appleは社名をApple ComputerからAppleに名称を変更したわけだが、それはこの「持つ喜びの演出」の名手がコンシューマー・エレクトロニクス・ビジネスに本気で乗り出すという強い意志の表れ。10年後の家電業界の勢力地図が今と大きく違うものになっている可能性は高い。

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隠れiPodユーザー:使っているのを知られたくない人々http://wiredvision.jp/archives/200410/2004101402.html

ウェブログ『クール・ハンティング』を運営するジョッシュ・ルービン氏は、iPodを持つのは「完璧にイケてる」ことだと述べている。

 「恥ずかしいと思っている人なんか1人も知らない。誰もいない。ここニューヨークでは、白いコードはクールな共通言語になっている。地下鉄や街中で、ユーザーは口には出さないが兄弟・姉妹のような連帯感を感じている」

 だがルービン氏は、自分では白いヘッドホンを使っていないことを認めた――理由はもちろん、よりよい音質を求めた結果だ。「そうだな、iPodを誇らしくは思っているけれど、表には出さないってところだな」

 文筆家のゴディン氏は、白いヘッドホンを「ひどく不快」に思うようになった友人の、示唆に富んだエピソードを明かした。

 「友人は、アップル社に利用されているような気分になった。地下鉄に乗ってくる誰もが、同じまなざしを向けてくるからだ。それでヘッドホンを黒いものに替えた」

 「ニューヨーカーの好む感覚だが、地下鉄に乗り込むとき、友人は自分を独立心にあふれた一匹狼のように感じている。だが、ふと見ると、車両の反対側にいる1人の男が、黒いヘッドホンを着用している。男が音量を調整するとき、iPodを取り出すのが見える。そのとき友人は、無意識に例のまなざし、『僕もiPodを持ってるよ』というまなざしを相手に送っている自分に気づくのだという」

 「この話は、自分と似た人を見つけたとき、人間は喜びを感じるということを証明している。世間の多数派に属するのは嫌な人でも、もっと規模の小さい集団には属したいという気持ちがあるものだ」とゴディン氏は語った。

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