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2007年12月15日
静岡市葵区の調整池にオールニッポンヘリコプター(東京都江東区)のヘリが墜落し2人が死傷した事故は、16日で発生から1週間。県警や国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、後部回転翼を制御する金属部品の破断が、墜落につながったとの見方を強めている。一方で、非常時の操縦法を記した飛行マニュアルが、逆に状況を悪化させた可能性も浮上。「なぜヘリは墜落したのか」。真相解明は、この二つのポイントを軸に進むとみられる。(静岡総局・森本智之、石井宏樹、佐野周平、報道部・梅田歳晴)
破断が確認されたコントロールロッドは、機体尾部にある棒状の金属部品。機体の向きを制御する後部回転翼と、操縦席の足元にあるラダーペダルをつなぐ。ロッドが破断するとペダルを踏んでも回転翼が操作できず、機体は安定を失って振り回される。
ヘリが墜落直前にペダルの不調を訴えたほか、墜落後の現場検証でロッドを覆うカバーに損傷が認められなかったことなどから、事故調は飛行中にロッドが破断した可能性が高いとみる。
では、なぜ破断したのか。岡山大の清水憲一助教(材料強度学)は「破断面の分析で原因や時期の特定は可能」と指摘。金属の破断には(1)想定外の大きな力が働いた(2)細かな力が継続的に働いた(金属疲労)(3)腐食が進んだ(4)小さな傷から亀裂が進展した−などが考えられ、破断面の形状やひびの入り方で区別できるという。事故調関係者も、原因特定のハードルは高くないとみているもようだ。
県警などの調べに、重傷の整備長は「説明書に従って立て直そうとした」と証言している。事故調が注目しているのが、その飛行マニュアルだ。
それによると、後部回転翼が故障した場合、機体を安定させるため、速度を70ノット(時速130キロ)以上に維持。着陸場所を見つけ、40ノット(同74キロ)の低速に落とし、航空機のように滑り込んで着陸する「滑走着陸」が可能かどうかを確認する。低速でも機体が安定すれば、滑走着陸を行う。
一方、低速で機体が横滑りする場合は、再び速度を増加させ上昇。エンジンと主回転翼を切り離して竹とんぼのように風圧を利用して着陸する「オートローテーション」を行う、と定めている。
しかし、専門家は「低速で機体が横滑りしたため、増速しようとヘリの出力を上げると、かえって主回転翼の反動でバランスを崩し、一気に墜落する可能性がある」と指摘している。
国交省は「飛行規程は着陸法としては合理的だが、緊急時の操作はブレーキの壊れた車を運転するようなもので、高度な技術が必要」との見解。ある操縦士は「後部回転翼が故障した状態で減速したり、その後に加速するのは操縦不能につながる可能性があり、怖い部分もある」と話した。
事故機は墜落から3日後の12日、池から引き上げられ東京へ移された。事故調は県警からの鑑定依頼を受け、来週にも機体の本格調査に入る。独立行政法人物質材料研究機構などを通じ、コントロールロッドの破断面を詳しく調べるとともに、家宅捜索で押収した資料などから事故機の整備状況などを調査。破断原因を突き止める。