◎小松も町家保存へ いとおしみたい「町人文化」
中心市街地に残る「町家」を、町人文化の遺産の象徴の一つとしていとおしみ、保存す
る事業を進めてきた小松市は、来年一月、「こまつ町家情報バンク」を開設する方針を明らかにした。
いわゆる「こまつ町家」と呼ばれるものは一九四五(昭和二十)年以前に建てられ、大
屋根、小屋根、虫かごを連想させる格子、雨をしのぐ犬走り、延焼を防ぐ袖壁(そでかべ)などを備えた伝統的な家屋だ。市の調査では、中心部の三十五町に計千百四軒点在し、寺社などとともに町人が栄えた時代の面影を町並みに残している。
たとえば、小屋根の下の細長い部分が犬走りである。にわか雨に遭っても、やり過ごす
ための雨宿りの場所にもなる。このごろの都心部には現代建築が多く、雨宿りの場所がない不便をしばしば痛感させられる。そんな意味で犬走りは現代建築にない街のぬくもりということができるのではないか。
北陸では金沢市や高岡市などが伝統的な町家や、それによる独特の風情の町並みの保存
に取り組んでいる。文化の伝統をいとおしむことを通して「ふるさと愛」もはぐくまれる。小松は金沢や高岡などとも連携して保存に努めてほしい。
ただ、小松の場合も維持費がかさむなどの理由から取り壊されたり、空き家になったり
している。空き家は六十七軒(町家全体の約6%)に達した。町家情報バンクは売却や賃貸を紹介する機能と、町家を住宅や店舗に活用した事例を教える機能とを持つ。町家認定制度も発足させ、自薦他薦を問わず、市民から登録候補の町家を募り、その価値を啓発し、保存に取り組むことにしている。
小松は加賀藩第三代藩主の前田利常が隠居して産業政策を展開したところで、絹、畳表
、九谷焼、茶などの特産地となり、能美郡の産物の集散地として町人文化が花開いた。それを大事にしようというものだ。
小松には忘れてならないものがもう一つある。藩政時代中期からの伝統芸能「お旅まつ
り」の曳山(ひきやま)子供歌舞伎(県指定無形民俗文化財)だ。インターネットを通して海外へも発信されている。これも維持管理のすべてを含めて小松の町人が育ててきた文化だ。子供歌舞伎は町家によく似合うのである。
◎福田首相訪中 首脳相互訪問の定着を
福田康夫首相が二十七日に中国を公式訪問する。中国の胡錦濤国家主席も来春、日本を
訪れる予定であり、これを機に日中首脳の相互訪問を定着させたい。当面の最大課題である東シナ海でのガス田共同開発問題では、中国側が譲歩する形での政治決断を胡主席に促してもらいたい。中国側の共同開発提案は日本として受け入れられるものではなく、安易に妥協してはならない。
福田首相は国内外で親中派と評されている。中国国内では首相を「中国に精通した知中
派の代表的人物」と持ち上げる本が出版されたばかりである。福田首相自身がそうした政治家評に縛られる余り、中国に対する物言いが妙に遠慮がちになったり、こびたりすることがないよう、あえて注文しておきたい。
中国に対して言うべきことを言い、そのために多少の摩擦が生じたとしても、首脳同士
の相互訪問が途絶えることがない関係にすることが重要であり、それが「戦略的互恵関係」構築の出発点であろう。
懸案のガス田共同開発問題は、高級事務レベルの協議が進められてきたが、対象海域の
範囲をめぐる対立が依然続いている。日本側は、両国の排他的経済水域(EEZ)が重なる中間線付近の幅広い海域のガス田を共同開発の対象にすべきと主張している。これに対して、中国側は東シナ海の南北二海域を対象海域とし、領有権を争う尖閣諸島周辺を範囲に含める一方、中間線付近で単独開発を進める白樺ガス田は日本側の資源を吸い取る可能性があるにもかかわらず、対象外にするという主張を繰り返している。
日本側の主張が国際的な常識にかなっており、まず歩み寄るべきは中国側と言わざるを
得ない。エネルギー問題に関して日本側はアフリカでの資源外交強化のため、「無原則な対外援助」で資源獲得に走る中国に透明性確保の注文をつけ、対立したこともあったが、国益にかかわる主張に遠慮する必要はない。
北京五輪の成功やその後の安定した経済成長実現のため、中国は日中の「友好善隣関係
」を長期的に発展させることを外交の基本方針としている。両国が相互に実利を得る関係へ改善を図っていきたい。