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2007年12月27日

 作家の村松さんは金沢を訪れると浅野川にかかる梅の橋に立つことが多い。「自分が物語の主人公になったような気分になるから」と言う

金沢おどりのフィナーレを飾る総踊りに新曲が生まれることになり、村松さんが「金沢風雅(ふうが)」を作詞した。お座敷太鼓の音が川面を渡ってくるような気分になる。ドンドンツクツクドンツクドン。最後のドンが意外と艶(つや)っぽい

太鼓の音は聞く人の気分次第で色々に変わる。例えば寄席の一番太鼓は「どんとこい、どんとこい」と聞こえるが、終わると「でてけ、でてけ」(寄席はるあき=安藤鶴夫著)になるといった具合。村松さんは落語通で金沢で落語を聞く会を開いていたこともある

各地の都市が街づくりやイベントを競っている。カギは「物語」が生まれるかどうかである。富山市八尾の風の盆の人気が高いのも、見る人踊る人それぞれのロマン、物語を生みだす風情があるからだろう。その集客力は「どんと来い」どころではない

住民も旅人も、小説家だろうと普通の市民だろうと、皆、自分が主人公になる話が好きだ。「物語を紡ぎだす街を」との村松さんの言葉を思い出す。


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