映像の刺激には慣れきっている子どもでも、生で見る演劇やミュージカルは新鮮な体験になるはずだ。しかし最近の子どもたちにとっては、そんなチャンスが減っているという。【丹野恒一、望月麻紀】
■学校5日制で激減
日本児童・青少年演劇劇団協同組合(児演協)が加盟劇団を中心に行っている調査によると、子どもを対象にした演劇は93年度には約2万6600回上演され、鑑賞者は約1040万人いたが、06年度は約1万7000回、423万人まで減った。少子化が進んでいるとはいえ、驚くべきペースだ。
大きな理由は、小中学校などで行われる演劇鑑賞教室の減少だ。児演協専務理事の長谷詔夫(はせつぐお)さんは「学校週5日制の導入以後、授業数の確保に精いっぱいで、行事の切り詰めが顕著に進んでいる」と語る。
保護者らが会員になって自主運営するシステムの「おやこ劇場」「こども劇場」の退潮も著しく、上演数は93年度の約5300回から06年度には約1700回に激減した。子どもの観劇を下支えしてきた、当事者の意識が変わってきたという。塾やスポーツ教室などは成果が見えやすいが、感性に働きかける観劇は元々性格が違う。「結果をすぐに求める人には無駄に思えるのでは」と長谷さん。
■工夫凝らす劇団側
こうした危機感から劇団や劇場も工夫を凝らす。劇団四季は4月から1年かけて、いじめをテーマにしたミュージカル「ユタと不思議な仲間たち」を全国巡回している。約34万人の観劇見込み数のうち25万4000人は企業の支援による無料招待。現在、JR京都駅ビル内の京都劇場で上演中(来年1月27日まで、問い合わせは06・4796・6600)。
劇作家、別役実さんが代表を務める兵庫県立ピッコロ劇団(06・6426・1940)は阪神大震災後の避難所慰問から始まった「ファミリー劇場」を続ける。
「子どもは正直な反応をみせる。一切手抜きなしの本格的内容にするよう心がけている」(広報担当・古川知可子さん)という。23、24日には同県立芸術文化センター(西宮市)で「飛んで孫悟空」を上演する。
文楽も本場ならではの活動がある。国立文楽劇場(大阪市中央区)の夏休み公演は、3部構成のうち第1部が親子劇場。スペクタクルな宙乗りなど飽きさせない演出が評判だ。
児演協の長谷さんは「多くの劇団はぎりぎりの財政状況で子どもたちの観劇文化を守ろうと努力している。広い視野を持って、年に一度は子どもに観劇の機会を与える大人が増えてくれれば」と話す。
毎日新聞 2007年12月22日 大阪夕刊