政府は、現在百二ある独立行政法人(独法)を八十六に減らすことや、一般競争入札の原則化などを柱とした独法の整理合理化計画を閣議決定した。
独法は中央省庁再編に伴い、各府省の政策実施部門のうち公共性はあるが、国が直接実施する必要のない事務・事業を分離して独立の法人格を与えた組織だ。官僚の天下り先との批判を受け、政府は八月に「真に不可欠なもの以外はすべて廃止する」との基本方針を打ち出していた。
計画では、国土交通省や農林水産省所管の研究機関などを中心に十六法人が六法人に統合されるものの、廃止・民営化は政府全額出資の特殊会社になる日本貿易保険など六法人にとどまった。政府の有識者会議が求めていた十一法人の廃止・民営化案からは大幅に後退した形で、尻すぼみの印象はぬぐいきれない。
渡辺喜美行政改革担当相は閣僚折衝を二度繰り返したが、既得権益を守ろうとする関係各省の抵抗が激しく、取りまとめは難航した。官邸主導で調整した結果、渡辺担当相が「改革の本丸」として民営化を強く求めていた都市再生機構、住宅金融支援機構については、二―三年後に「結論を得る」とするなど、先送りが目立つ内容となった。抜本改革とは程遠い決着と言わざるを得まい。
独法の職員数は全法人を合わせ十三万人を超える。公的な事業を手掛ける性格上、補助金などの名目で年間約三兆五千億円の国費が投入されている。合理化計画により、来年度削減される財政支出は千五百六十九億円とみられる。削減効果はいささか期待はずれといえよう。
横断的に講ずべき措置としては、批判の強い職員の高額給与をめぐり、所管の閣僚が国家公務員に比べて水準が高い法人に対して「社会的に理解が得られる水準にするよう要請する」と規定された。
また、無駄遣いとの批判が絶えなかった随意契約のうち、金額ベースで70・7%を一般競争入札などに移行することも盛り込まれた。不透明な随意契約は官製談合の温床ともなってきただけに、見直し措置を講じたのは当然のことだろう。
福田康夫首相は「スピード感をもって着実に具体化していくことが重要だ」と閣僚らに指示した。合理化計画が「骨抜き」にならないよう実施状況を監視するとともに、先送りされた課題についても議論を詰めていく必要があろう。改革はこれで終わりではない。官僚に甘いと言われる福田首相の独法改革への姿勢とリーダーシップが問われるのはむしろこれからだ。
昨年九月のクーデターでタクシン前首相が失脚、軍部主導の暫定政権が続くタイで、クーデター後初の下院(定数四八〇)選挙が行われた。
前首相の政策継承を掲げた「国民の力党」が過半数には届かなかったものの第二党で反タクシン派の「民主党」を大きく上回る議席を獲得、政権樹立への主導権を握った。だが前首相の帰国問題など難問も山積、民主国家復帰にはなお時間がかかりそうだ。
今年八月に公布された新憲法下で行われ、民政移管への総仕上げと位置付けてよい。開票の結果、タクシン派復権を訴えた国民の力党が第一党になり、前政権が信任を得た形となった。昨年のクーデターの意義に疑問を投げかけるに等しく、軍部にとっての痛手は大きかろう。
背景にはクーデター後、スラユット枢密院顧問官を首相とする軍主導暫定政権の人気低下がある。相次ぐ経済政策の失敗や爆弾テロによる治安悪化が影響した。バンコクなどの都市部と農村部との格差拡大も有権者の不満拡大に輪を掛けた。結局、強権や汚職体質、一族の株取引疑惑などはあったが前首相の輸出産業育成と地域振興、社会福祉を両立させた経済政策が支持されたといえよう。
既に連立工作が活発化している。国民の力党を中心とする政権発足の場合、亡命状態にある前首相の帰国も視野に入るが、軍部など反タクシン派との間で再び摩擦が強まる恐れがある。一方、民主党が国民の力党以外と連立を組む可能性も残るが、多党連立で政権は不安定となる。タイは東南アジアのリーダー国であり日本との関係も深い。内政の混乱は当面、不可避だが早く民主政治を樹立し国情を安定させてほしい。
(2007年12月26日掲載)