寒風吹きすさぶ熊本市のある橋の下。20代のホームレスのカップルが、身を寄せ合って暮らしていた。2人は知的障害者で、施設を出て自分たちの世界を築いた。
だが、愛の日々は壁に行き当たった。女性が身ごもったのだ。2人は市役所に駆け込んだが、助けは得られなかった。妊婦は途方に暮れて住み家に寝そべるしかなかった。やがて陣痛が始まった。
「熊本ホームレス自立支援の会」の関係者が異常に気づきメンバーに連絡。今月14日、女性は病院に運びこまれ、3時間後、男の子を出産した。「危機一髪だった。だれも気づかなかったらどうなっていたことか」。男性会員が振り返る。
カップルが相談したという市役所は、一般的に生活保護受給者か国民健康保険加入者でなければ、出産費用などは工面できないという。だが、母子2人の命が危険にさらされている状態だ。「行政はそれでいいのか」と思えてならない。
この1年、赤ちゃんポストや水俣病救済問題を取材した。ポストは追いつめられた女性への行政相談窓口の不備を明らかにした。親元で暮らせない子どもたちの処遇の不十分さも浮かび上がらせた。政治解決を模索する水俣病問題は、被害者が求める全面、根本解決にはなお遠い。
国政では薬害肝炎被害者の救済問題が大きな話題となっている。そんな年の瀬に聞いたホームレスの話。今年は困窮する人々への行政、政治の冷たさがやたらと目につく年だった。
毎日新聞 2007年12月26日