現在位置:asahi.com>社説 社説2007年12月26日(水曜日)付 NHK新会長―経営委員会の見識を疑うNHKの新しい会長に、アサヒビール相談役の福地茂雄氏が選ばれた。19年ぶりの財界人からの起用である。 大企業を率いたことがあり、改革を進められる。文化的素養も十分。古森重隆経営委員長は起用の理由をそう語る。 だが、なぜ福地氏でなくてはならないのか。古森氏の説明を聞いても納得がいかない。 私たちはこれまで社説で、「NHK会長は何よりも高いジャーナリズム精神の持ち主でなくてはならない」と述べ、財界人では務まらない、と主張してきた。 NHKは予算を国会で通さねばならず、常に政治との距離が問われる。政治家が何を言ってきても、がんとしてはねつけなければならない。そうでないと、報道機関としての独立性が保てない。 福地氏は放送界にもジャーナリズムにも無縁だ。報道機関のトップとして適任とは思えない。しかも、73歳という高齢である。NHK会長という仕事は名誉職的にはこなせない激務だ。 古森委員長ら経営委員会の見識を疑わざるをえない。 さらに疑問なのは、富士フイルムホールディングス社長である古森委員長に加え、会長も財界人になることだ。委員長も会長も財界人というのは、どう考えても、バランスを失している。 もうひとつの懸念は、商業主義だ。 NHKは、画面に企業名が出るのを避けるなど、特定の企業の宣伝にならないように気をつかってきた。そんな公共放送のトップに、ビール会社の営業畑の人がふさわしいのだろうか。 19年前の苦い教訓を思い出す。 当時の経営委員長は、住友銀行会長の磯田一郎氏だった。それまでNHK生え抜きの会長が12年続いた流れを絶ち、磯田氏が新会長に持ってきたのは、三井物産相談役の池田芳蔵氏だった。財界の経営委員長が自分と親しい財界人を連れてくる。今回とよく似た構図だ。 その結果がどうなったか。池田氏は国会での答弁ミスが重なり、9カ月で辞任に追い込まれた。磯田氏も一緒に経営委員長をやめるはめになった。 同じことがまた起こるとは思いたくないが、大丈夫だろうか。 いまのNHKは不祥事で受信料不払いが広がった3年前とは違う。前会長が辞任したあと、局内の空気は自由になったという声がもっぱらだ。番組もドラマ「ハゲタカ」やNHKスペシャル「ワーキングプア」など、評価の高い作品が目立つ。視聴率も今年上期はフジテレビに次いで2位だった。 確かに大胆なスリム化など抜本改革の点では物足りない。しかし、それとて財界人会長でないとできない話ではない。新会長の仕事はむしろ、良くなってきた流れを壊さないことではないのか。 福地新会長が政界や財界との距離を保ち、報道機関のトップとしての責任を果たせるか。厳しく見つめていきたい。 税制改正―国会の論戦が楽しみだ衆参ねじれ国会の恩恵だろう。国会での税制論議が白熱しそうだ。 これまでは政府与党が税制改正案を決めればほぼ終わりだったが、参院で野党が多数を占めたことで、そうはならなくなった。民主党がまとめた対案が注目されるのはそのためだ。 「実質的な補助金」との批判がある法人税などの租税特別措置について、与党と民主党では対応が大きく分かれた。いわゆる「租特」である。 国税分だけで300項目近くあり、07年度での国税の減収は約3兆4千億円に達するといわれている。与党案は従来どおり租特を維持する内容だ。 これに対し、民主党は「税金をおまけするのであれば、制度をつくった省庁やメリットを受ける企業には、国民への説明責任がある」と主張する。 そこで「租特透明化法案」を通常国会に提出する。個々の利用実績などのデータを政府に公表させ、効果や必要性を吟味したうえで、08年度中に存廃を仕分けしていくとしている。 多種多様な租特について、国会の場で個別に検討されることは、これまでほとんどなかった。いい機会なので、実態を一から洗い直してほしい。 自動車関係への課税を道路建設に使っている「道路特定財源」に対しても、双方の案が分かれた。暫定的に税率をほぼ2倍にしている暫定税率について、与党は「10年間上乗せを続け、現行の税率を維持する」とした。 対する民主党は、用途を道路に限定しない一般財源へ全額変更する。同時に暫定税率は地方税分を含めて全廃する、という大胆な案を決めた。ただその一方で「地方の道路整備は従来水準を維持できるよう確保する」ともいう。 道路を求める地方の声に配慮したのだろうが、暫定税率をやめれば税収がほぼ半減する。それで地方の道路整備を維持できるのか疑問だ。ましてや「一般財源化」と言ったところで、道路以外に財源を回せるとは思えない。 将来、どれだけの道路整備を見込み、その財源をどうするか、民主党は明確にすべきだ。それなしに減税を先行させれば、あとで財源不足の穴を国債で埋めることになりかねない。 総選挙を意識して与野党とも減税先行へ傾きがちな時期だけに、要注意だ。 こうした個別の項目以上に、今後の税制ビジョンに注目したい。 民主党は消費税について、「国民に確実に還元することになる社会保障以外に充てない」と位置づけた。 自民党も消費税を社会保障の費用を賄う主要財源、と明記した。 どちらも時期や税率などに踏み込んでいないが、将来の税率引き上げを想定している。それなら、維持すべき社会保障の水準も示したうえで、国会論戦で内容を深めていくべきだ。来るべき総選挙で政権選択の判断材料になるからだ。 PR情報 |
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