◎伸びる日本酒輸出 北陸への誘客の呼び水にも
ことしの日本酒の輸出量が過去最高を更新する見通しとなり、今後もアジアを中心に需
要が伸びると予想される。酒どころ北陸では、台湾をはじめとする東アジアからの観光客誘致に向け、地域の魅力づけの大きな武器になる。国内消費量が低迷する中、海外の和食ブームで親しみやすさが増したのも一因のようだが、来年の小松―台北便の就航でつながりが深くなる台湾を中心に、来訪者に北陸の酒も売り込んで一層の誘客に結びつけたい。
日本酒の輸出量は二〇〇二年から前年比で伸び続け、ことしは十月までで前年同期比1
0・1%増となっており、一九九六年の約一万四百キロリットルを上回ると予想される。昨年の輸出先のシェアでは、ここ十年で和食レストランが二・五倍に増えた米国が約33%を占め一位となった。世界の食材が集まる米国での手堅い伸びは酒造業界として心強い傾向だろう。
加えてアジアでの伸長も著しい。二位の台湾が19%となり、香港や韓国も好調で、近
年、バンコクや上海などで開かれた国際見本市でも、バイヤーに売り込むには、魚介類とともに日本酒が欠かせない出展品となっている。今後、東アジア地域が米国とともに海外市場の中核になっていくのは間違いなかろう。
石川、富山の酒造業者の中には、積極的に海外見本市に参加するところも増えてきたが
、輸出比率はまだまだ低いとも言われている。白山市の「白山菊酒」のように、日本酒の地域統一ブランドとして広く認知されるケースもあり、質の高い日本酒どころとして世界に発信するには申し分のない土壌を持っている。豊富な食材と合わせてアジアの主要都市へ打って出たい。
さらに、現地に出向く販売促進もさることながら、北陸を訪れる台湾や韓国の観光客が
増える中、フランスでワインを楽しむツアーがあるように、日本酒を賞味する企画もあっていいだろう。北陸の伝統工芸は、陶磁器や漆器の酒器にも息づいている。料理と合わせて一流のもてなしの美学をたんのうしてもらうことも考えたい。リピーターとして、息の長い北陸ファンを増やすことになるだろう。そうした中から、国内消費につながるヒントも生まれてくるのではないか。
◎独法整理計画 「閣内不一致」では困る
政府が閣議決定した独立行政法人(独法)の整理合理化計画は、独法改革のほんの一歩
に過ぎない。閣議決定に至る過程で、省庁批判を展開する渡辺喜美行革担当相に他の閣僚が反発する「閣内不一致」も見られ、官僚ペースで尻すぼみになった印象は否めない。今年度の骨太方針に示された「ゼロベースでの見直し」を今後も継続してもらいたい。
今年度で三兆五千億円の補助金が投入され、官僚の天下り先になっているとの批判が絶
えない独法の整理合理化は行革の目玉として、安倍前内閣から福田内閣に受け継がれた。政府の有識者会議は「真に不可欠なもの以外は廃止する」との基本方針に基づき、百二ある独法のうち都市再生機構や緑資源機構など十一法人の廃止、民営化を求めた。
有識者会議の提言を受けて渡辺行革相と関係閣僚の折衝が始まったが、報道陣を引き連
れて独法施設の視察を繰り返す渡辺氏の行動を「パフォーマンス先行」と苦々しく見ていた閣僚が少なくなく、折衝はうまく進まなかった。このため官邸側は「行革相本人が協議の障害」とみて直接協議に乗り出し、渡辺氏が浮き上がる形になったという。
行革相と省庁側の言い分を伝えるのに熱心な閣僚が感情的に対立する状況では、官僚が
抵抗する独法の大胆な改革は難しい。案の定、廃止・民営化が決まったのは六法人にとどまった。最大の焦点だった住宅金融支援機構と都市再生機構の扱いは二、三年後に結論を得ると先送りされ、うやむやに終わりかねない心配もつきまとう。鳴り物入りで始まった行革の目玉にしては、物足りない結果であり、内閣一体の取り組み態勢を築けなかった福田首相の指導力不足を指摘せざるを得ない。
今回の独法改革計画で注視したいのは、独法が民間企業と結んでいる「競争性のない随
意契約」を抜本的に見直し、その七割を一般競争入札に切り替える方針が盛り込まれたことだ。独法の随意契約は〇六年度で約六万四千件に上り、契約額は一兆円を超える。随意契約は一般に割高で、不正の温床になりやすい。事業の適正執行と経費節減のため、競争入札への切り替えはもっと早くになされてしかるべきだった。