「あの笑顔をもう一度見たい」。手元の原稿を読み返すうち、涙がにじんできた。中学の先輩二人から暴行を受けた後、十一月十六日に自殺した岡山市の高校一年男子生徒(16)の母親の言葉だ。
社会部は人の生死にかかわる取材が多いが、今回の事件はとてもショックだった。傷害、恐喝容疑で逮捕された少年二人は生徒を足でけり、「靴が壊れたのはおまえのせい」と修理代を要求。深夜の河川敷では、たばこの火を全身に押しつけ、川に入ることを強制したという。あざは二の腕、太ももなど見えない部分に集中。いじめを通り越して、完全な犯罪だ。
今月十一日、母親を訪ねたのは二十代の記者だった。名刺を渡し、遺影に手を合わせた。そのうち、ポツリと語ってくれた。夜勤の母親に代わって風呂掃除を担当し、高校を卒業したら就職して家計を助けると言ってくれたこと。約二時間。取材ノートが次第にかすんできたという。
若い記者にとって、子どもを亡くした親の気持ちを完全に理解するのは難しかったろう。でも、一人の人間として、数々の言葉の重みに向き合っていた。私も、母親のことを少しでも知りたくて、一緒にメモを見直し原稿に仕上げた。
生徒は自殺前、三十万円を持ってくるよう要求されていたという。「なぜ警察に相談しなかったのか」と無責任なことは言えない。当事者の恐怖、失望感は相当なものだったに違いない。
「二十五日のクリスマスには家族でバイキングに行こうと約束していました」と母親は言った。やりきれなさが募る。
(社会部・広岡尚弥)