酒気帯び運転の車にはねられ最愛の娘を亡くした中桐裕訓さん(56)=岡山市横井上=の闘いに先日、終止符が打たれました。運転者は業務上過失致死罪で起訴されないまま公訴時効を迎えたのです。
中桐さんの人生が一変したのは二〇〇二年十二月二十一日。娘の裕子さん=当時(19)=が自転車で帰宅中、酒気帯びと速度違反の女子高生=当時(18)=の車にはねられ、死亡したのです。
女子高生は道交法違反罪(酒気帯び運転)で略式起訴されましたが、業務上過失致死罪は嫌疑不十分で不起訴でした。裕子さんの直前横断が事故の原因とされたのです。
中桐さんは事故後、検察に再捜査を求める街頭署名を行ったり、事故当時は分からなかった加害車両の衝突痕の“新証拠”を見つけるなど奔走。検察審査会で三度の「不起訴不当」の議決を得ました。何度も取材でお会いしましたが、悲しみや憎しみ、落胆といった感情があるはずなのに、冷静で論理的な話しぶりが印象に残っています。
しかし、法の素人からみれば、業務上過失致死罪での不起訴は、どこか世間の常識と食い違っている気がします。民事訴訟では、女子高生の過失の重大さを認め七千七百万円の支払いを命じており、刑事と民事の判断の違いにも戸惑います。
交通事故をめぐっては、危険運転致死傷罪が〇一年に新設され、厳罰化が進んだ一方、加害者の起訴率は年々低下しています。そのことに不信感を抱く遺族が大勢いることを警察、検察関係者はあらためて肝に銘じてほしいと思います。
(備前支局・二羽俊次)