二〇〇八年度の政府予算案が、閣僚らの復活折衝を経て決まった。福田康夫首相が手掛けた初の予算案は、参院選の与党大敗を受け地方への配慮など格差是正をにじませたものとなった。議論の舞台は来年一月中旬から予定される通常国会に移る。
復活折衝は五百億円の調整枠の中で行われた。野生鳥獣による農林水産物の被害を防ぐための総合対策や、次世代型の路面電車を整備するための公共交通支援策などが復活した。
今回の予算編成は、参院選大敗や次期衆院選を意識し与党内で高まる歳出圧力と、財政健全化路線との攻防が注目された。一般会計総額は前年度当初予算に比べ0・2%増の八十三兆六百十三億円となり、二年続けて増えた。わずかな増加率にとどめたものの、税収の伸びが鈍化する中、特別会計からの繰り入れを増やしたり、借金の返済を先送りするなど苦しいやり繰りが目立った。
その場しのぎのような対応では歳入に限界が生じた。財政健全化の指標となる基礎的財政収支は五年ぶりに悪化し、今後に課題を残した。財政規律が甘くなり、行財政改革の手が緩まないようにしなければならない。
予算案の最大の特徴は地方財政や農業、高齢者などに強く配慮したことだ。小泉政権以降の構造改革の陰に光を当てる、という福田首相の公約に沿った格差是正措置である。その方向性は理解できるが、具体策については疑問点が少なくない。
例えば農業だ。「戦後農政の大転換」といわれ、担い手となる中核農家に国の支援を集中する「経営安定対策」が始まったばかりだが、早くも軌道修正した。小規模農家への補助を手厚くするなど関連予算に約二千二百億円を計上した。
幅広い農家の保護に財源一兆円を示す民主党に対抗し、衆院選をにらみ小規模農家への支援を求める与党内の意見を反映したのだろう。選挙目当てで政策がコロコロ変わる「ネコの目農政」の再現と批判されても仕方あるまい。
社会保障関係では高齢化で膨らむ医療費対策として、七十歳以上の人は一部負担増となる制度改革が行われたが、年齢により半年から一年先送りした。これも場当たり的な対応といえ、国民の不安が解消されるとは思えない。税制を含む抜本改革が急務だ。
通常国会では、与野党とも中長期的な視点で政策の妥当性、実効性を議論しなければならない。有権者は選挙目当ての言動を見抜く厳しい視線を注ぐ必要がある。
薬害肝炎訴訟の和解協議をめぐり福田康夫首相が、患者全員を一律救済する法案を与党の議員立法で今国会に提出し成立を目指す方針を表明した。重い首相の公約である。
福田首相が、支持率低下を懸念したことも決断の背景にはあるのであろう。しかし原告・弁護団は「大きな一歩である」と高く評価している。政府、与党は野党の協力も得て速やかな成立に努力する必要がある。
大阪高裁で十一月から本格化した和解協議で、国と原告が最も対立したのが、患者の「線引き」の問題だった。
国が「線引き」をかたくなに主張したのは、いったん原告側の主張を受け入れてしまうと、救済対象が際限なく広がり、財務負担も膨大になることを懸念していることが大きな理由である。これまでの五地裁で争われた判決でも国の責任範囲については、まちまちな結果となっている。
しかし国が製造承認した汚染製剤が原因でC型肝炎に感染し苦しんでいる人々に何の落ち度があろう。薬害肝炎は、製薬会社と国のずさんな薬事行政に責任があるのは明らかだ。
法案では、患者の「線引き」をなくし、血液製剤の投与時期にかかわらず、患者に金銭補償する方向で検討が進む見通しだが、患者は投与の事実をカルテなどで証明し、第三者機関が証明する案などが出ているという。
一律救済を決断した福田首相は「許認可権を持っている行政の責任は免れることができない」と述べている。当然であり、国が責任を明確化することが一律救済の前提だ。薬害を二度と繰り返さないためにも、患者たちの願いをくみとった救済法案としなければならない。
(2007年12月25日掲載)