徳川家康のころ「五霊膏(こう)」という目薬がはやった。ハマグリの貝殻に入っている軟こうを、水で溶かし糸に浸す。患者はその糸の下に目を持ってきて、薬液をキャッチ?する。いかにも、もどかしい。
「二階から目薬」という江戸のことわざは、そんなところから来ているのだろう。「思い通りにならないもどかしさ」は、自分で目薬を差す時代になっても変わらない。
宙に浮いた年金騒動も「二階から目薬」の心境で越年する。腹立たしい。
5000万件の年金記録漏れ。6月、柳沢伯夫前厚生労働相は「すべて名寄せできる前提には立っていない」と答弁した。ところが、舛添要一厚労相は「来年3月ぐらいまでに最後の一人、一円まで確実にやる」と大見えを切った。大臣が代わるとお役所は変わるのか。正直なところ、疑心暗鬼だった。
それが、年の瀬も押し迫って「約4割が持ち主の特定が困難」と分かる。舛添さんは「一人一円論」をサッサと引っ込め「誰が(大臣を)やっても同じ」と開き直った。「やる」と言って「やらない」。これはヤルヤル詐欺?
今年の漢字は「偽」。だますやつが増えた。注意深く周囲に目を光らせ「やっぱりだまされた」と気づく人が増えた。
多分、人々が「完ぺき」を求めるようになったからだろう。“ほどほど”で許すようなことはしない。
「最後の一人、最後の一円まで」は完ぺき主義である。100%なんてあり得ないのに、政治家は無理やり、公約する。今ごろ「あれはスローガンだ!」と言い訳しても、完ぺき主義の人々は「100%と言ったじゃないか!」と憤激する。
完ぺき主義は窮屈だ。もっとおおらかに考えた方が体に良い。食品偽装も「食中毒も起こさないギリギリの賞味期限を偽装して『うまい』と褒められる。あれは名人芸」と笑い飛ばした方が良い。
医療機器メーカーの中国系米国人社長・王恵民さんが雑誌「エコノミスト」でこんなことを話している。「10万人を対象に実験をして、1人に不都合があり、9万9999人に問題がないと、欧米では1人を徹底的に分析しながら9万9999人は次のレベルに進む。日本はその1人の原因が分かるまで9万9999人の研究はストップする」
完ぺき主義があしき保守主義に通じることもある。少しは「二階の目薬」に耐え、寛容になっても良いじゃないか。(専門編集委員)
毎日新聞 2007年12月25日 東京夕刊
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