来年正月に東京の歌舞伎座と新橋演舞場で「歌舞伎十八番」物が上演される。「歌舞伎十八番」とは、市川團十郎(だんじゅうろう)家の得意とする「家の芸」の18演目をさす。さて、どんな芝居があるのだろう。【小玉祥子】
「勧進帳」「助六」「暫(しばらく)」「矢の根」「毛抜」「鳴神」「不動」「外郎売(ういろううり)」「押戻(おしもどし)」「景清」「解脱」「不破」「象引(ぞうひき)」「七つ面」「関羽」「嫐(うわなり)」「蛇柳(じゃやなぎ)」「鎌髭(かまひげ)」。以上が「十八番」だ。
七代目團十郎が1832年に選定したが、その源は初代團十郎が創始した「荒事」にさかのぼる。超人的な英雄が力を発揮する荒事は、團十郎家の代々が得意とし、「十八番」のほとんどで荒事的英雄が活躍する。
だが、「十八番」の全部が人気作品というわけではない。「景清」「解脱」「象引」「七つ面」「関羽」「蛇柳」「鎌髭」は上演が途絶え、明治以降に復活されたが、現在でも興行にかかることは少ない。「不動」「押戻」は、それぞれ「不動明王の形をとる」「豪傑が魔物を押し戻す」という演技形態を意味し、独立演目ではない。「毛抜」「鳴神」は明治末に二代目市川左團次が復活して以降、人気演目となった。
正月に團十郎さんが歌舞伎座夜の部で上演するのが「助六」だ。侠客(きょうかく)の助六は、刀探しのため、他人にけんかをふっかけている。恋人は吉原一の売れっ子遊女の揚巻だが、意休が言い寄っている。
黒の衣装に紫のはちまき、尺八を背中にさして傘を持つのが助六のスタイルだ。「二代目團十郎が作った江戸文化の粋を集めた芝居です。荒事の中に和事(関西に発する柔らかみある演技)的な要素を取り入れたところが、十八番物の中でも特殊です」と團十郎さん。
「『助六』『矢の根』『暫』『勧進帳』は、代々が工夫を重ねた結果、演出が確立されていますが、『鳴神』と『毛抜』には、まだ考えなければいけないところがあると思います」
その「毛抜」「鳴神」と「不動」を含んだ通し狂言「雷神(なるかみ)不動北山桜」を、團十郎さんの長男、海老蔵さんが正月に新橋演舞場で上演する。初演の二代目團十郎以来の粂寺(くめでら)弾正(毛抜)、鳴神上人、不動明王の3役のほか早雲王子、安倍清行を演じる。
天下を狙う早雲王子の陰謀を阻止しようとする善人方が弾正と清行で、朝廷の違約に怒り、竜神を封じ込めて都を日照りにするのが鳴神。不動明王は最後にすべてを鎮める。
「市川家の荒事です。勧善懲悪なんです」と海老蔵さん。不動明王ではラスベガスのイリュージョンを用いた空中浮遊にも挑戦する。「技術があれば、きっと初代も二代目も使ったと思います」
歌舞伎座は1月2日から26日まで。新橋演舞場は1月2日から27日まで。問い合わせはチケットホン松竹(03・5565・6000)。
毎日新聞 2007年12月22日 東京朝刊