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高山植物:シカの食害、深刻…希少植物、生態系にも影響--南アルプス

 長野、山梨、静岡の3県にまたがる南アルプスで、希少な高山植物がニホンジカの食害などによって壊滅的な状況にあることが、林野庁中部森林管理局(長野市)の調査で分かった。環境省のレッドデータブックで、最も絶滅の恐れの高いとされる「絶滅危惧(きぐ)IA類」に分類されているキバナノアツモリソウは、南アルプスに生育していたほぼすべての個所で消失。植生の消滅や地表の裸地化も懸念される深刻な状況が明らかになった。【藤原章博】

 同局は昨年8~10月、長野県側の南アルプス北部で尾根や登山道付近を中心に調査した。高山植物へのニホンジカの食害調査は行政機関では初めて。

 ニホンジカによる高山植物の食害は、標高1500~3000メートルと広範囲に及ぶ。クロユリの群生地やヒメバラモミ、タデなどに食害が顕著に見られた。一方、マルバダケブキやタカネヨモギなど、餌にならない草木は繁茂している。かつて高山植物が群生し「お花畑」と呼ばれた場所が草地に変わってしまったケースもあるという。

 静岡大理学部の増沢武弘教授(植物生態学)は「5年ほど前から『お花畑』がなくなり始め、3000メートル付近の高山植物まで減り始めた」と話す。仙丈ケ岳(3033メートル)の仙丈小屋(2890メートル)管理人の宮下隆英さん(55)は「4、5年前から、機械で刈ったように『お花畑』から高山植物が消えた」と嘆く。「お花畑」で知られる三伏峠(約2600メートル)や馬ノ背の尾根(約2800メートル)などは壊滅状態にあるという。

 ニホンジカは多くの高山植物を餌とする上、群れで行動するため、他の動物に比べ被害が大きい。増沢教授は「地表がむき出しになってしまうので、地盤ももろくなる」と警鐘を鳴らす。

 日本アルプスを代表する鳥、ライチョウの生態も影響を受けている。食害を受けているシナノキンバイなど高山植物を餌にしているからだ。

 日本鳥学会の会長で、信州大教育学部の中村浩志教授(鳥類生態学)は「このまま食害を受けると、ライチョウの減少につながる」と話す。

 長野県によると、県内の南アルプスでの推計頭数(06年度)は3万300頭で、02年度の約2万頭から急増した。ニホンジカが増えた理由はいくつかあるようだ。信州大農学部の竹田謙一助教(応用動物行動学)は「地球温暖化による少雪の影響がある」と説明する。

 南アルプスも近年、降雪量が減っている。従来は雪に阻まれて生息できなかった高地にもシカが進出。これまでほとんど確認されなかった3000メートル付近でも頻繁に目撃されるようになった。

 里山の手入れが行き届かなくなり、シカの餌になる草木が増えたことも挙げられる。餌が豊富にあるなど良好な環境では4年で2倍も個体数が増えるという。竹田助教は「シカが増えるさまざまな条件が重なってしまった」と話す。

 一方で、減らすための条件は悪化している。少子高齢化によるハンターの不足だ。県内の狩猟登録者数はピークだった76年度の2万6805人から、05年度には6508人と4分の1以下となり、過半数が60歳以上の高齢者という。

 県は特定鳥獣保護管理計画に基づきシカを捕獲している。02~05年度の目標数は6700頭だったが、上回ったのは04年度だけだ。県森林整備課は「目標を達成できるよう力を入れたいが、具体的な方策はない」と話す。

 竹田助教は「ニホンジカの食害は丹沢などでも見られるように、既に全国的な問題になっている。生息する地域も拡大し、北アルプスや中央アルプスでも今後同じ被害が懸念される」と話す。また、環境省国立公園課は「現状を憂慮している。高山植物の被害状況を年内にまとめ、対策を講じたい」としている。

毎日新聞 2007年6月12日 東京朝刊

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