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2007年12月25日

◎注目の再生医療 金大は幹細胞研究の先駆け

 たらい回しの揚げ句に亡くなった救急移送の妊婦や、医師不足による地域医療の危機な どの問題が大きく報道されたことに象徴される暗い話の多かった、医にまつわるこの一年だったが、明るい話もあった。

 京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らのグループが人の皮膚細胞から万能細胞をつ くることに成功したことをはじめとして、名古屋大が乳歯から取り出した幹細胞を保存しておくバンクをスタートさせ、大阪大のチームが重い心臓病の患者に幹細胞をつかった再生医療を施して回復させるなどによって、再生医療の研究が注目されたことだ。

 この再生医療の研究にいち早く着手したのが金沢大医学部だった。約三十年前、骨髄か ら取った幹細胞を白血病患者に移植し、病気の治癒に成功したのである。日本初だった。郷土の人間には忘れてならない幹細胞研究の輝かしい最初の業績だったといっておきたい。

 金沢大にはその研究を受け継ぐ研究者が各分野にいる。分野別にいうと、再生脳外科学 、脳情報分子学、再生分子医学、細胞移植学、臓器機能制御学等々であり、同大学のがん研究所には「がん幹細胞研究センター」と「分子標的治療開発センター」がある。

 再生医療を考える場合、いろんな臓器の細胞になる可能性を持った万能細胞(胚(はい )性幹細胞=ES細胞がその代表的なもの)をつくって臨床に応用しようとする研究と、可能性は一つの組織幹細胞の応用研究に分けると混線しない。後者はすでに臨床で好成績をあげている。

 山中教授らは皮膚の組織幹細胞から万能細胞をつくったもので、受精卵を壊してつくる 胚性幹細胞と異なり、倫理問題をクリアした点で世界の研究者を驚嘆させたのだが、前者も後者もともに日本の研究は世界のトップレベルにあるといわれる。

 再生医療は急速に進歩している。本質的な治療であることから、ゆくゆくは医療に大き な領域を占めるとされている。平たくいえば、医療に革命をもたらすということだ。世界の研究者がしのぎを削っている分野である。山中教授の要請で政府が国を挙げての支援に乗り出すように、国民には強い関心を持ち、応援することが求められているのだ。

◎少子化対策 隣県連携も臨機応変に

 石川、福井県と両県の福祉団体が結婚支援事業で初めて情報交換の場を持ち、出会いを 提供する企画などで連携策を探ることになった。少子化の背景には未婚、晩婚化があり、行政も男女の仲立ちを買って出る時代である。それは地域を問わず共通する悩みであり、隣り合う県同士が情報を持ち寄り、意見を交わせば新たな発想が生まれるかもしれない。

 少子化対策は各県の最重要課題として県民運動のような広がりをみせているが、歯止め をかける特効薬はなく、行政にとっては困難なテーマである。石川県が全国に先駆けて始めた多子世帯の優遇制度「プレミアム・パスポート」が瞬く間に全国に広がったのも、決め手がなかなか見つからないことの表れでもある。

 さまざまな施策やアイデアを組み合わせて地道に取り組むほかなく、隣県で効果が表れ た試みがあれば遠慮せずに取れ入れ、広域展開できるものがあれば臨機応変に手を組んでほしい。

 結婚支援事業に関しては、いしかわ子育て支援財団がボランティアによる「縁結びis t」、福井でも県婦人福祉協議会が独自の結婚支援事業を展開しているが、福井県は予算措置も石川以上で、全国から視察が訪れるほど熱心である。県内三十カ所で月二回以上、定例相談日を設定しているほか、理容店・美容店約千七百店に相談事業のチラシを置き、「迷惑ありがた縁結び」と名付けて登録者を増やしている。石川も参考にできる取り組みであり、両県で情報を共有すれば出会いの機会も格段に広がるだろう。

 一方、福井県は石川のプレミアム・パスポートを参考に来年三月から「すまいるFカー ド」を始める。三人以上の子を持つ世帯を対象にするなど仕組みも石川とほぼ同じである。金沢市などへ買い物に訪れる福井県民も増えており、カードの共通化もぜひ検討してもらいたい。

 富山、岐阜両県でも、十八歳未満の子が一人以上いる世帯がサービスを受けられる優遇 制度で今夏から連携している。お隣りの県に負けじと独自性を競い合うのも結構なことだが、政策の実効性をより高める方法として隣県連携は常に頭に入れておく必要がある。


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