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クローズアップ2007:医師確保、悩む自治体 類似策で奪い合い

 国の08年度予算案でも重点項目の一つとなった医師不足対策。毎日新聞が先月実施した都道府県調査からは、自治体も医師確保対策に力を入れている現状が浮かぶ。日本における医師の絶対数不足は深刻だ。ドクターバンク、給与優遇、再就業支援……。あの手この手の対策で医師不足は解消できるのか。問題解決のための抜本策はあるのか。現状と課題を追った。【河内敏康、五味香織、鯨岡秀紀】

 ◇好条件に“応募ゼロ”も--研究費100万円補助、月給20万円上乗せ…

 「研究費助成!」「国内外での研修が可能!」。医師向け新聞のホームページに掲載された岩手県の「ドクターバンク」の求人広告には、こんな勧誘文句が並んでいる。

 岩手県のドクターバンク事業は、06年12月にスタートした。医師不足に悩む県内の病院や診療所に勤務できる医師を登録する。任期は3年で、うち1年間は有給のまま国内外の大学などで研修できる。3年間で最大100万円の研究費も補助し、かなりの好条件だ。

 さらに県内の医師にダイレクトメールも送ったが、この1年間、応募実績はゼロ。

 県医師確保対策室は「利用しやすいよう制度の見直しを検討中だが、医師の絶対数が少なすぎる」と頭を抱える。

 山梨県も同様の制度を実施しているが、採用はいまだない。昨年9月にドクターバンクを始めた愛知県では、今年10月までに13人を医療機関に紹介したが、医師不足の解消には程遠いのが実情だ。

 埼玉県は、医師確保のため給与面で優遇する策をとる。臨床研修病院が、産婦人科と小児科の後期研修医を医師不足地域に派遣する場合、医師1人当たり月に最大で20万円を給与に上乗せできる支援制度を実施。2病院で6人の産科医を確保することに成功した。

 埼玉県医療整備課は「産科や小児科の勤務医が少ない中、後期研修医は即戦力になる。しかし、各都道府県が同じような医師確保策を実施しているため、限られたパイの奪い合いをしているような状況だ」と嘆く。

 ◇女性医師復帰、常勤の壁高く

 女性医師が増える中、医師不足対策の柱の一つとして、出産などで退職した女性医師を対象にする再就業支援が注目されている。毎日新聞の調査では、33道府県が実施中だ。

 群馬県は06年度から支援事業を始めた。07年度は約3000万円の予算を組み、退職前の技能を取り戻すために再教育を実施する病院への委託料と、研修中の保育料の補助に充てている。

 この事業で、30代の内科医が2月から再教育を受け、8月に前橋市内の民間病院に採用された。別の30代の外科医も「負担が軽い診療科を」と内科の再教育を受けており、08年1月にも現場に復帰する予定だ。

 いずれも非常勤での勤務を希望しているが、県医務課は「昼間だけの勤務でも、常勤医の負担を軽減できる。家庭の事情で退職した女性医師がフルタイムで復帰するにはハードルが高い。医師としての能力を活用しないのはもったいない」と話す。

 一方、常勤医確保を目指す県は苦労している。山口県は06年度から小児科、産科、麻酔科への女性医師の復帰に対して支援を行う。予算は年800万円で、復帰に必要な研修費に充てる。研修後は公的医療機関の常勤医として勤務してもらうが、応募者はいない。県医務保険課は「パート勤務として復帰した医師はいるが、常勤での復帰を望む女性医師がどこにいるかも把握できない」と悩む。

 三重県も07年度から同様の支援制度を開始した。県内にある高校の同窓会に協力を求め、県外在住者にも呼びかけているが、非常勤を希望する人が多いという。県医療政策室は「非常勤でも補助の対象にするなど、新たな対策の検討が必要かもしれない」と話している。

 ◇少な過ぎる絶対数--各国平均に「14万人不足」

 毎日新聞の調査では、各自治体の医師確保対策予算は急増している。回答のあった46都道府県の合計額は、03年の約22億4000万円と比べ、07年は3倍以上の約74億6000万円になった。各都道府県はこのほか、地方で勤務する医師を養成する自治医大の負担金を年に1億2700万円ずつ支出している。

 だが、医師不足解消の見通しは立っていない。島根県は「専任スタッフ7人で取り組み、02年度以降で29人の医師を招いたが、地方の取り組みには限界がある」と回答した。

 背景には、日本の医師数の少なさがある。経済協力開発機構(OECD)によると、日本の医師数は04年、人口1000人当たり2・0人。加盟30カ国でワースト4だ。各国平均の3・0人に追いつくには約14万人も足りないとの試算もある。国は「地域や診療科によって医師数に偏りがあるのが医師不足の原因」との姿勢だが、医師の絶対数そのものが少ないのが実情だ。

 医療法の医師配置基準は、一般病院では入院患者16人に1人以上、外来患者40人に1人以上。厚生労働省によると、常勤医だけでこの基準を満たす病院は04年度でわずか35・5%。最も医師数が多い東京都でも45・8%にとどまる。非常勤医を含めると83・5%の病院が基準を満たすが、フルタイムで働くわけではない医師もカウントした上での数字だ。

 しかも、この基準は1948年に定められたものだ。

 済生会栗橋病院(埼玉県)の本田宏副院長は「基準は実情に合っていない。例えば、抗がん剤の外来治療が行われるようになるなど、患者一人一人の治療の質と密度は、以前とは全然違う」と指摘。その上で「うちの病院は常勤医だけで配置基準を満たしているが、当直明けの医師が手術をしなければならないなど、過酷な勤務を強いられている。医師を大幅に増員しない限り、問題は解決しない」と警鐘を鳴らす。

毎日新聞 2007年12月25日 東京朝刊

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