政府は食品偽装をはじめ国民生活を脅かす事件や事故の多発を受け、各省庁が来年度までに取り組む緊急対策を打ち出した。生活関連の施策などを総点検する「生活安心プロジェクト」の関係閣僚会議で決めたもので、来年度予算案などに反映させる。
福田康夫首相は所信表明演説などで、生産第一の思考から国民の安全・安心を重視する政治への転換をうたってきた。先の参院選で「生活重視」を掲げた民主党に大敗した教訓によるもので、首相は消費者・生活者の目線での総点検とともに、緊急対策の年内取りまとめを指示していた。
緊急対策は「食べる」「働く」「作る」「守る」「暮らす」の五分野の計六十一項目からなる。関係閣僚の地方視察や地域住民との対話、さらにはインターネットで寄せられた声を踏まえてまとめた形をとっている。
主なものとしては、「食べる」では食品不正表示の監視を強化するため、農林水産省に専門チーム「食品表示特別Gメン」を来年度新たに設ける。二十人規模で、不正表示による被害が広域にわたるケースに機動的に調査する。食器に含まれる鉛の規格基準の厳格化も挙げる。
「働く」ではパートや契約社員の正社員登用制度を就業規則に明示し、実際に登用した事業主への奨励金制度を新設する。「作る」ではインターネットを利用して製品事故などの情報を自由に書き込める「事故情報データバンク(仮称)」を国民生活センターに構築し、行政処分や再発防止策に活用することなどを盛り込んだ。
食品や住まい、家電製品、悪徳商法、非正規雇用問題など身の回りには危険や不安が渦巻き、国民生活の基本である安全・安心が揺らいでいる。そうした中で、さまざまな角度から緊急に取り組むべき対策を打ち出したことは意義あるものといえよう。
中でも、独立行政法人の整理合理化計画に絡んで縮小が取りざたされていた国民生活センター(東京)の機能を一転して拡充させることは、福田首相の消費者重視の姿勢を示した。
とはいえ、全般に各省庁がすでに打ち出している対策の寄せ集めや焼き直しが多く、新鮮味に乏しいとの指摘もある。政府は引き続き施策などの総点検を進め、来春には中長期的な政策を取りまとめる方針だが、選挙目当てでなく真に国民が何を求めているかを重視し、見直していかなければならない。実効性ある対策につながるか、福田内閣の重要課題だけに首相の指導力が問われる。
多重債務者問題への対策として、消費者金融などへの規制を強める貸金業法(旧貸金業規制法)が一部施行された。同時に発足した業界団体による過剰融資に歯止めをかける自主ルールの適用も始まり、新たな取り組みへ踏み出した。
貸金業法は二〇〇六年十二月に公布された。一〇年までに段階的に施行され、利息制限法の上限(年15―20%)を超えるグレーゾーン金利の廃止や、借り入れ総額を年収の三分の一以下とする「総量規制」の導入などを目指す。
今年一月の無登録営業(ヤミ金融)などへの罰則強化に続き、第二段階となる今回はしつこい回収を日中も禁止する。金融庁に業務改善命令の権限を与え、貸金業者の監視を強化するなどである。
貸金業法の最終段階となるのが、上限金利の引き下げと「総量規制」の導入だが、大手の多くが規制を前倒しして上限金利を引き下げている。同法で業界に自主規制機関の設立が義務付けられたのを受けて設立された「日本貸金業協会」の自主ルールでも、安易な貸し付けを改善するために、借り手の返済能力評価の厳格化が進む。
次々と借金を重ね、困窮から自殺や家庭崩壊などを招く多重債務者は大きな社会問題になっている。本人の意識とともに、高い金利と過剰な貸し付けが背景にある。その改善によって多重債務者の歯止めに期待がかかる。
だが、一度返済しても生活難から再び借金が必要となり、貸金業者の厳しい選別で行き場を失ってヤミ金融に走ることも懸念される。政府や自治体などの相談窓口機能を充実させ、生活再建も含めたきめ細かな対応が重要だ。ヤミ金融への一段の取り締まり強化も欠かせまい。
(2007年12月24日掲載)