静岡市葵区でオールニッポンヘリコプター(ANH)所属のNHK取材用ヘリが墜落し乗員2人が死傷した事故で、県警は13日、東京都江東区のANH本社など4カ所を家宅捜索した。また墜落前、死亡した小宮義明機長(当時57歳)が緊急時のマニュアルを見ながら操縦したり、不時着を試みた可能性があることが、県警などの調べで分かった。県警などは小宮機長の操縦と事故の関係を詳しく調べる方針だ。
国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会と県警の調べでは、機体後部の「テールローター」(後部回転翼、以下テール)につながる「コントロールロッド」が飛行中に破断した可能性が高いことが判明。亀山幸代整備士(33)は「神奈川、静岡県境上空を飛んでいた墜落の約20分前に異常があり、マニュアルを見て直そうとした」などと証言している。
国交省によると、マニュアルは事故機を製造したドイツのユーロコプター社が作ったものを基にANHが作成した。故障時の対処方法などが記載されている。
マニュアルでは、テールが故障した場合、まず機体の安定を保つように操縦し、テールが動かなくても機体が安定する70ノット(時速約130キロ)以上の速度で飛行。その後不時着のために適した場所を探し、着陸を試みるよう書かれている。
その次の手順では、着陸に向けて40ノット(時速約75キロ)まで速度を落とすとされている。目撃情報では、墜落前の機体は低速で横滑りするなど不安定な状態で、その後数回転しながら墜落した。ある整備士は「静岡へリポートは狭いため滑走距離が短く、速度を40ノットより落とす必要がある。速度を落としすぎたため、制御不能になった可能性もある」と指摘する。県警と事故調は、速度を落としたことと墜落との因果関係について慎重に調べている。
県警は同日、ANH本社以外に、関連企業の「全日空商事」(東京都港区)、事故機の年1回の定期点検を担当していた「全日空整備」(大阪府豊中市)、静岡へリポート内のANH静岡基地(静岡市葵区)を捜索。事故機の整備記録や飛行記録、マニュアルなど関係書類計約60点を押収した。【田口雅士、望月和美、浜中慎哉】
毎日新聞 2007年12月14日