M−1準決勝東京の続き。
これは当日の出演順を追って書いている。ここまで9組について書いたが、9組目の(キャンXキャン)は実際には出演14組目だった。即ち、ここまでに5組について書いてないということになる。その差は、大きくは僕の記憶度合による。つまり書いているコンビはより記憶に残っているということだ。その時、何故記憶に残るかといえば、先ず、僕がそのコンビ、或いはそのコンビの漫才を好きだからというのもあるし、嘗て仕事をしていたり、テレビで知っていたりして元々興味があったというのもあるし、ストレートに初めて見たけど面白かったというのもある。いずれにせよその程度の事だ。何か恣意的なものがあるわけではない。
では。10組目から!
【10】ザ・パンチ(浜崎陽介・松尾和範)
吉本興業
▼パンチパーマの浜崎(ボケ)があの顔でひょうひょうと「女にモテル心理テスト」をやったり、「エアギター」をやったりする。その全てに、松尾の懇願するつっこみが入る。このコンビの特徴=武器の一つがこのツッコミである。去年などは「お願いだから死んでぇ〜」。要するに気持ち悪いか、そんな事しても無駄だからという松尾の気持ちを表したツッコミというわけだ。
▼それが今年はバージョンアップした。「砂漠でラクダに逃げられてぇ〜」「大きい工場の近くの川で泳いでぇ〜」(他にもあったが)という風だ。客は笑い、その作戦は当たっていたが、その分、本ネタがぼやけた気がした。それはその懇願ツッコミが浜崎の言動に対応してないからだと僕は考える。つまり、懇願ツッコミがボケを受けて「だったら、○○○○○してぇ〜」とやったら、笑いも起き、本ネタも強調されるのではないだろうか。そして、時に全く呼応してないツッコミを入れる。作家としての僕はその方が漫才の出来が良い(≒面白い)と判断する。
▼さて、以下はザ・パンチ関連で、今回のM−1のある部分への意見だ。それは、浜崎が「エアギター」を演った時、松尾が「オレの知ってるヤツと違う〜!」と突っ込むのだが、このツッコミ流行ってるのか、同じツッコミをしたコンビが東京だけで3組ほどいた。つまり、ボケが「○○○をやる」と言って、それをやるのだが全く違うのでツッコミが「オレの知ってる○○○と違う」と言うのだ。面白い。笑いも取る。が、オリジナルはあるはずだ。この手の笑いは、誰かが、どのコンビかが思いついたもののはずだ。それがザ・パンチであったら、この僕の遺憾は失礼なだけのだが、だとしたら他の2組に言う。それをやってはダメだ。人のネタを取る、盗ることだ。お笑いとしては恥ずかしい限りだ。けどこれって「誰が○○○やねん!」とかと同じツッコミでしょう。誰が使ってもいいものでは、と言うなら、僕の判断ではそれよりは独創性の高い、初めてこれをやった人のものだと言えるものだと言おう。
▼無論それは創作者に失礼だし、評価的にも損だ。お客さんもそう思うだろうが、審査員も「同じネタをやってる」と思う。それは「誰が○○○やねん」には思わない。ここが重要だ。当たり前だが、他の人と同じことをやって売れた人はいない。自分だけの笑いを作るのはお笑いの義務だ。でなければお笑いの資格はない。
【11】ザブングル(松尾陽介・加藤歩)☆決勝進出
ワタナベエンターテインメント
▼「マナーを守らない人」、今回は「スーパーのレジで抜かされた」話。その、怒りや悔しを加藤が伝える。「キリキリ」と歯も鳴らすし、最後にはやはり「くやしいです!」も出る。大いに受けて、見事、いや遂に決勝進出だ。
▼確か去年の彼らの評に、「ベスト8にはもう一歩。しかし、近い将来それを果たすだろう」と書いた。的中!流石かわら長介!ま、審査員なのに変な話だが・・・
▼しかし、実は僕の彼らへの不満は今年も解消されていなかったのだ。要するに、加藤の逆切れを活かすならもっと大胆な構想をと願ったのが、今年も前述の如く「レジで順番を抜かす人」である。如何せん、設定が矮小だ。下世話だ。無論、笑いは取っているのだし、リアリティもある。だが、加藤の力はまだ発揮しきれていないと思う。加藤の(悔しさ=怒り)はもっと、大袈裟な、更に言うなら不自然なものを扱っても、そのリアリティを失うことはない、と思うのだ。それは、彼らへの僕の期待の大きさでもある。
▼いや、彼らは、日常の中に彼らなりの‘悔しさ’を証明したいのかもしれない。それで行こうと決めたのかもしれない。それで笑いを取ることが一番気持ちがいいのかもしれない。だが、また言うが、だとしたら、残念だ。もっと面白いネタを作れるのに・・・
▼無論、彼らがそれで行くならそうでしかないのだが、僕も悔しいからこれだけは言おう。「レジで順番を抜かす人」。これにひとりで怒る加藤だが、もし彼らが日常の出来事にリアリティを証明する漫才(コント)をやると言うなら、では、「順番を抜かした人にも理由がある」という視点を是非持ってほしい。こんな事はレジの前のもめ事に限らず、世の中すべての事がそうである。究極、だから冤罪は起こり、犯罪者も宗教者たりうるのだが。「抜かした人の理由、事情」を松尾が言う。それがどんなに病むに病まれなくても、或いは逆にどんなに理不尽でも、或いはどんなに荒唐無稽でも、それさえも超えて加藤は「くやしいです」と叫ぶ!それでこそザブングルの世界が作れると思うのだが。
【12】サンドウイッチマン(伊達みきお・宮澤たけし)
フラットファイブ
▼「友達の結婚式でのスピーチ」を宮澤がやる。全編ボケだ。これに登場即、「どうもヤクザです」と自己紹介した伊達が突っ込む。
▼淡々と、ただ淡々とボケとツッコミが続く。笑いも取っている、間も良い、面白い。だが、それは自分たちが気持ちいいことをやっているだけのように見える。それって、結構観客不在というか、ファン無視ってことでは?勿論、誰の為に芸人をやっているかと言えば自分の為だろうが、人間生きることはそう単純でも、自由でも無い。
▼「たくらだ堂60,61〜変節」の上沼恵美子のところで書いたが、芸人は売れることに比例して社会的責任が大きくなると。分かりやすく言えば、売れれば期待が大きくなるのでその期待に応えなくてはならなくなるのだ。つまり、好きな道なんだけど、自分勝手に自由に生きるという訳には行かなくなってくるのだ。だが、他人に期待される処に生甲斐は更に倍加する。誰にも頼られない人生が如何に空しいか、生き難いかは少しの想像力で理解できることだ。そして、彼らへのその期待とは‘もっと面白い笑いを!’という以外には無い。
▼当たり前だが彼らに上を目指す気が無いわけは無い(筈)。その最大の成果と意志を見せつける場としてM−1は相当有効な場であると思うし、彼らもそう思っている(筈)。それなのにこのネタでは如何なものかと正直思わざるを得ない。このままでは、僕に彼らの栄光は見えてこない。
【13】タイムマシーン3号(山本浩司・関太)
ケーアッププロモーション
▼いいネタだった。「ガリガリ君が当った。〜2本!3本!〜神に選ばれた!〜メタボになる!〜当たりが止まらない!〜恐い、外れねぇんだ!」。怖くもあり、面白くもある。「これを落語で」などと、粋な展開も瞬間作る。笑いも十分だ。
▼嘗て2005年に一度決勝へ進んでいる実力コンビだ。聞くところによるとNHKの「爆笑オンエアバトル」で史上2組目の満点(545キロバトル)を獲った事もあるとか。この日も実力を遺憾なく発揮した・・・が、2年前のようにはいかなかった。何故か。審査する側から云えば、或いは審査結果から云えば、彼らより面白い組が8組以上いた、ということである。但し、これは審査員全員の意見ではない。中には彼らを8位以内に採点した人もいるかもしれない。当たり前だが結局は僕の意見でしかない。しかし、彼らが敗れた事情に限りなく近い答えではないかと思う。
▼この現状をネタで超えるか、キャラで壊すか。両方なら尚のこと良い。結成8年。M−1だけを見ないで邁進すべし。1000万円は大きいけど!
【14】超新塾(イーグル・ドラゴン・マンモス・コブラ・タイガー)
ワタナベエンターテインメント
▼「3,3,7拍子〜オレが応援団〜バレーの監督〜」というネタ運び。セリフと動き、両方を駆使して、次々と短いネタの連発だ。無駄が無く出来もいい。今、読み返したら、去年のコレでも同じようなことを書いている。そして、「芸が小さい」とも。
▼彼らがそう見えるのには理由がある。5人だからだ。5人という事はそれぞれが台詞をきっちり覚え、間を外さず、勿論順番も間違えることなくネタを展開していかねばならない。ただ、それはふたりの漫才でも、3人のトリオでも当然の条件だが、5人の方がそのことをより守らなければならない事はお分かり頂けるだろう。つまり、5人グループはより不自由なのだ。誰かがアドリブなどを噛ますと、混乱は二人漫才より甚大だ。五人漫才が「小さい」由縁だ。同じ事は大阪の5人グループプランナインにも言える。そして、ひとつのグループとして当然の配慮の結果、5人を並べて生かそうとするから、綿密ではあるが窮屈なネタにならざるを得ない。
▼だが、嘗て、いや今も健在だが『シティボーイズ』というグループがある。大竹まこと、きたろう、斉木しげるという今や60直前のおっさん達が不動で恐らく永遠のメンバーであるコントグループだ。
彼らが若き頃、YTVの「お笑いスター誕生」に出ていた。覚えているネタに3人が「歯のバイ菌」で暴れるものがあった。この時の彼らは、3人であるのに、一切の不自由さや窮屈さを感じさせなかった。一概には「超新塾」と較べられない。先ずは3人だし、ネタの形態も違う。今回の超新塾は動きで決める連発ショートネタだ。間とリズムとテンポに勝手や齟齬は許されない。台詞が飛んだ日にゃあ、総崩れだ。対するシティボーイズは5分ほどのストーリーものだ。多少の破綻は何とか回復できる。たとえ、台詞が飛んでも「忘れやがって」と突っ込めば凌げる。元も子も無くなりはしない。当然芸風の違いもある。だが問題は、おっさん達の方がパワーがあったことだ。当然笑いも大きい。
▼彼らの今回のようなネタを否定するものではない。いっそ僕は好きでさえある。そして、恐らくライブなどではおっさん達に負けないストーリーものを演っているだろうとも思う。しかし、彼らはM−1にはあの種のネタで挑戦して来る。そこには大いなる意志があるのかもしれないが、果たして、準決勝の審査員だけでなく、その上の大御所たちにも貫徹成就できるのであろうか!敢えて、投げかけてみる。
▼その上で、更に言う。天下を取るならやはりドリフに成れるかだ。その為に何が必要で、何が要らないかは、プロなら分かろう。だがドリフに成れと言ってるのではない。しかし無論、その道も厳しい。そして、今あなた方が選んでいる方法も厳しい。
【15】東京ダイナマイト(松田大輔・ハチミツ二郎)
オフィス北野
▼この人達はどうしてこうなのか?去年、「ビールを注ぐ」ネタで受けず、結果落選。それが今年、また再びのネタ選び失敗だ!
▼「2007年のニュース」。僕にはこのネタ選びは失敗に思えた。「松崎しげる・えなりくん・ルクプル・東国原知事・・・」基本、そのニュースを言うだけで笑いが起きるネタ選びではある。だが、その羅列だ。事件そのものが面白いのであって、彼らの斬り方や料理の仕方に冴えは無い。
▼結局、あの意識的な表情でモノを言う僕の好きな松田大輔は不発、いや、必要無かったネタになってしまった。ハチミツ二郎がひとりでパネル芸でやっても良かった代物になっていた。残念至極。
▼ひょっとして、一度決勝に出たことで自分達にOKを出してるの・・・って思うくらいだ。
※ははは、今日、決勝だ!全然間に合ってない。でも、しつこく書きますから!
※因みに、今夜は恒例の塾生と我がマンションで鍋を囲みつつM−1決勝を見る校外学習です!今年は20人ぐらいだそうだ。
※優勝はどのコンビかみんなでギャンブルします!僕は□□!漢字二文字の・・・・