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肥満、痴ほう、ストレス…

 肥満や痴ほう、心因性の異常行動…。そんな症状に悩まされているのは、何も人間ばかりではない。近年、“現代病”を患うペットの犬や猫が増えている。高齢化やストレスが要因に挙げられるが、思い込みだけでかわいがる飼い主にも大きな問題があるようだ。一方、行政による犬の殺処分数は減少基調をたどっているものの、依然として全国上位なのが現状。気軽に動物を購入できる環境が整う半面、飼い主の知識不足による「虐待」の増加も懸念されている。「動物受難」はどうすれば改善できるのか―。動物愛護週間(二十―二十六日)に合わせ、県内のペット事情を探るとともに、人間と動物の「共生」の在り方を考える。

増える現代病=飼い主の過保護一因 長寿・高齢化に伴う症状も

高松市内の動物病院。近年、ペットにも肥満や痴ほうなどの“現代病”が増えている(資料)
高松市内の動物病院。近年、ペットにも肥満や痴ほうなどの“現代病”が増えている(資料)

 「ここ五年ぐらいで特にペットの現代病が増えましたね」。そう嘆くのは、高松市内の動物病院のベテラン獣医師。来院する犬と猫のうち、現代人を悩ます生活習慣病や高齢化に伴う疾患が六割程度を占め、さらに増加傾向にあるという。カルテの内容も人間そっくりになってきた。

症例も人並み
 獣医師によると、二十年ほど前にはほとんどなかった症例が約十年前から散見されるようになり、近年は右肩上がり。なかでも目立っているのが肥満だ。
 太り過ぎや体力の低下で自由に動くことがおぼつかなかったり、メスが自力出産できず帝王切開手術を余儀なくされるケースもある。さらに、心臓病や関節病の誘発などで「万病のもと」となっているのが現状だ。
 ペットフードがおいしく高カロリーになったことや運動不足などが原因だが、「根底には飼い主の過保護に問題がありますね」と獣医師。症例は純血種で小型の室内犬に多く、チワワなどブームに乗った高価なペットを思い込みでかわいがる飼い主の姿が浮かび上がる。十分なケアをせず、洋服を着せて皮膚病になるのもそんな一例だ。

放置が原因に
 ストレスに悩まされるのも、決して人間だけではない。「ある小型犬は落ち着かない様子で、ひっきりなしに前脚をなめ続けて皮膚がふやけた状態になっていた」。ベテラン獣医師は、心因性の異常行動とみられる症例があることを訴える。
 結局、患部を治療して完治したが、原因は不明のまま。飼い主は「寂しさをまぎらわせばストレスを緩和できる」と判断し、新たに犬を飼って仲間を増やす対応を取ったという。
 獣医師は個々の原因の特定は困難としながらも、▽ペットショップからの移送疲れや環境の急激な変化▽子供におもちゃのように扱われる―などを例示。嗅(きゅう)覚や聴覚が鋭いため、夜間の車の通行、深夜営業店舗の騒音の増加などに過敏に反応してしまう可能性があるとも指摘する。
 また、国分寺町内の愛犬家は「過保護と逆に、核家族や共働きの増加で飼い主が十分に構わない場合、自傷行為やカーテンを引っかくなどの問題行動に走ったペットもいる」と説明。動物たちもストレスの多様化に苦しめられているといえそうだ。

“介護疲れ”も
 「犬や猫の寿命が約三十年前と比べ二倍近くに伸びた印象がある」(ベテラン獣医師)というほどペットの高齢化が進んでいる。ペットフードの栄養価の高まり、医療技術や薬品の向上、動物病院が増えたことなどが背景だ。
 これに伴い、老齢病も増加の一途。深刻なのが▽昼夜が逆転して夜にほえ続ける▽家の場所が分からなくなり、はいかいする▽えさを食べ過ぎる―などを症状とする痴ほう症だ。
 長年連れ添うと愛着がわくだけに、献身的に介護する飼い主も多いというが、県東讃保健福祉事務所の担当者はやり切れなさそうにこう明かす。「近所からの苦情や“介護疲れ”に腐心し、引き取りを依頼してくる例も…」。
 老齢病ではがんや白内障、歯周病、脱毛も少なくない。ペットが死を迎えるまでしっかり面倒を見る「終生飼養」が叫ばれる中、獣医師は「身勝手な飼養が残酷な結果につながることを自覚し、飼い主は相当の覚悟を」と語気を強める。小さな命をあずかる飼い主に課せられた責任は、限りなく大きい。

殺処分=犬5年で3割減 目立つ知識不足の虐待

動物愛護の精神を訴えようと開かれたイベント。その浸透までの道のりはまだまだ険しい=23日、高松市内
動物愛護の精神を訴えようと開かれたイベント。その浸透までの道のりはまだまだ険しい=23日、高松市内

 「確かに近年は犬の処分が減ってはきましたが…」。県内で捕獲、または飼い主から引き取った犬や猫を殺処分する県動物管理指導所(高松市春日町)。動物愛護週間中のある日、おりの中で死を待つ犬たちを前に、県の担当者は複雑な表情を浮かべた。

意識の高まり
 県生活衛生課と高松市保健所によると、二〇〇三年度に県内で殺処分された犬は五千七百四十七匹。前年度と比べ約一割減、過去五年間でみると約三割減少している。
 主因に関し、県と市はともに「動物愛護に関する飼い主の意識が徐々に高まってきたのでは」と口をそろえる。確かに飼い主からの引き取り依頼件数は、五年間で約二割減った。
 市町の取り組みも後押しした。過去五年間で避妊・去勢手術の助成金制度の整備が相次ぎ、四月現在で十市町に増加。助成件数から殺処分の減少を説明できるほどの実績ではないが、飼い主への意識付けなど目に見えない効果も指摘される。
 ただ、総数が依然として全国上位にあることに変わりはない。さらに、「室内飼いの需要が増えている」(業界関係者)という猫の殺処分数は犬の半数程度だが、逆に増加傾向なのが現状だ。

遺棄は犯罪
 「殺処分をさらに減らすには、遺棄を許さない風土づくりが重要」と強調するのは、香川犬猫ネットワークの鷲谷直子代表。二〇〇〇年十二月施行の改正動物愛護管理法では虐待、遺棄の罰則が大幅に強化された。
 摘発件数は少ないが、鷲谷代表は「動物のことでも警察が動くというだけで効果がある」と、遺棄が犯罪という認識の浸透を訴える。
 また、県動物管理指導所から譲渡される犬と猫の数が減少したのも課題だ。県と高松市は〇一年一月、平日に月一回開く講習会を受けた上で、責任を持って飼うことを誓約した希望者に譲る「里親制度」を導入。安易な譲渡に制約を課したが、実績は同年度の五十八匹から、昨年度には十二匹に激減した。
 「救える命は救いたいが、また捨てられ、繁殖することを考えれば一定の制約も不可欠ではないか」。県と市の担当者はそんなジレンマに頭を抱えながら、制度の改善策を模索している。

市場は拡大
 「ペットブームといわれて久しいが、今も市場は拡大してますね」とは、県内の業界関係者。店舗や販売コーナーの増加などが要因で、飼い主の責任がクローズアップされるのとは裏腹に、気軽に購入できる環境が整ってきたという。
 現状について、動物愛護かがわの藤沢智恵美理事は「動物に接する機会には恵まれたが、衝動買いして知識がないまま飼う人も目立つ」と指摘。一部の業者には▽展示環境の狭さや不衛生▽ペットを大きくしないためえさを最小限しか与えない―などの虐待があると憤る。なかには店員もそのえさを適量と思い込み、飼い主に助言していた例も。
 過去には足を切断されたり、目を焼かれた犬が見つかって「動物虐待県」と注目を集めたことがあるが、藤沢理事は「不適正な飼養も虐待。安易に購入できるようになった分、そんなケースは増えているのでは」と不安な胸中を吐露する。
 虐待や遺棄、そして殺処分…。人間と動物の共生への道には、向き合わなければならない課題が山積している。解決のための特効薬はないが、飼い主だけでなく、県民一人ひとりが動物の現状に目を向け、動物愛護思想の高揚に努めていくしかない。

インタビュー=県獣医師会副会長・細井義輝氏 愛情と管理で終生飼養

県獣医師会副会長・細井義輝氏
県獣医師会副会長・細井義輝氏

 ―ペットを取り巻く現代病と、その生活環境には、どんなものがあるのか。
 細井副会長 人間世界を映す鏡のように肥満、がん、糖尿病のほかに高齢化による痴ほう症などがある。原因は栄養価の高いえさ、運動不足、ストレスなどが挙げられる。改善するには原因を取り払うこと。えさを改め、しっかり運動させればかなり改善する。これも人間と同じだ。

 ―ストレスも人間と同じようにさまざまあるのか。
 細井 散歩をさせてもらえないとか、一日中放っておかれるなど、かまってもらえないことも大きなストレスになる。例えば、屋外で飼うにしても、家族の目の届く所にいることを実感させてやるだけで随分症状が改善した例もある。飼い主なら、何がストレスになっているのか、ある程度想像がつくはずだ。

 ―飼い主が気を付けなければならないことは。
 細井 愛情と管理が大切。家族の一員として愛情を注ぐとともに、かつ人間ではない動物なんだと認識した上での管理が必要ということだ。どちらか一方欠けても飼い主失格になる。管理とは動物の習性をよく知り、それに応じた食事を与えたり、病気予防、しつけをすることなどを指す。病気予防でいうと、外国では狂犬病で年間五万人が死亡している。防げる病気は防ぐのが先進国の役割なのに、近年、日本は予防摂取率が下がってきているのは心配だ。これは法律で定められた飼い主の最低限の義務でもある。必要なら避妊や去勢手術もし、人畜共通感染症にも十分気をつけなければならない。

 ―ほかにも法律で定められた禁止事項や飼い主の義務などはあるのか。
 細井 よくあるケースだが、自分で飼えなくなったからと、段ボール箱に入れて置き去りにしてくるのは犯罪。また、かわいそうだからといって世話する気もないのに、野良犬や野良猫に気まぐれでえさを与えるのも駄目。要は、最初から最後まで面倒が見られないのなら動物は飼ってはならないと考えるべきだろう。飼う前には家族で話し合い、十、二十年先には介護の問題もあることを考慮すべき。これら最低限の義務を果たした上で、次に取り組まねばならないのがしつけということだ。

 ―正しい飼い方やしつけなどは、誰がどんな方法で教えるのが良いのか。
 細井 動物との付き合いの先進国といわれる英国などでは、飼い主が責任を持って、しつけのための学校に行かせている。日本はまだまだ、そのレベルには程遠いのが現状だ。数年前から行政による犬のしつけ教室も年に数回あるようだが、行政任せでは不足。先進国並みの社会の熟成と意識改革が必要になってくる。

 ―動物好きもいれば嫌いな人間もいる。共存のためにはどうバランスを取れば良いのか。
 細井 県獣医師会のアンケートによれば75%が動物好きとの結果が出ている。動物との触れ合いによる心を癒やす効果は治療法にもなっているくらいだ。さらに、核家族化が進み人の生死に立ち会う機会が少なくなった子供たちにとって、命の尊厳を学ぶ大切な教育の場にもなる。ただし、飼い主のモラルはしっかり守り、他人に迷惑を掛けないこともしっかり学ばせてこそ生きた教育と言える。

佐竹圭一、岩部芳樹が担当しました。

(2004年9月26日四国新聞掲載)

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