『湾岸ホールディングス』『湾岸警備保障』『湾岸理化学研究所』 そう3つの看板を掲げたビルは草が生い茂る広大な埋立地の外れに、その居を構えている。 『湾岸ホールディングス』は、 総務部、調査部を擁し、 『湾岸警備保障』 『湾岸理化学研究所』 を傘下企業に持つ持ち株会社。 その傘下企業である、 『湾岸警備保障』 は警備部、装備部を統括しメイデン・フォースの攻撃・防衛面を、 『湾岸理化学研究所』 は技術部、医療部を統括しメイデン・フォースの技術面を、それぞれサポートしている。 『メイデン・フォース本部』 それがこの企業群の実態である。 「司令、そろそろ出発のお時間です」 「わかったわ、三島さん。でも、平時は『社長』って呼んで頂戴。普段からこっちの呼び名に慣れていないと、外でボロが出そうだわ」 そう、『湾岸ホールディングス社長』の九重明日香は苦笑すると、ハンガーにかけてあったスーツを手にした。 『社長秘書』である三島佳代は防衛省からの出向者で、本来の肩書きは『一尉』。 彼女にとっては『社長』よりも『司令』のほうがしっくりくるのかもしれない。 明日香の言葉に、くすっ、と佳代は笑うと、 「失礼しました、『社長』。では、参りましょう」 そう言って、社長室の扉を開けた。 −それと同時刻、湾岸理化学研究所内。 「部長、こちらの書類にサインをお願いします」 「・・・はい、ご苦労様。後は私のほうでやっておくから、もう上がっていいわよ」 藤崎礼菜(ふじさきれいな)は差し出された書類を一瞥してさっとサインすると、野田瑞希(のだみずき)にそう微笑みながらその書類を返す。 「そうですか?じゃあお言葉に甘えて、お先に失礼します」 瑞希はそう言ながら書類を受け取ると一礼し、部長室から退室していった。 バタン 「ふぅっ・・・」 瑞希がドアの向こうに消えると、礼菜は眼鏡を外し目頭を抑え、ぐっと椅子に背を預けた。 それとともに、白衣の下に押し込まれた豊かな胸が弾む。 礼菜はメイデン・フォースの医療部長であり、優秀な医師でもある。 礼菜の居室、『医療部長室』は事務スペースの他に、診療所のような医療設備が整えられている。 それは彼女が医師である、ということに加えて、重要な任務を担っているためであった。 壁掛け時計を見上げると、既に午後9時過ぎ。 通常であれば先程の瑞希と同様に、礼菜も帰り支度を始めている時間だ。 だが今日はあと一人、ある訪問者を迎えてから、業務を終える予定である。 コンコン どうやら、その訪問者がやってきたようだ。 「はい、どうぞ・・・」 礼菜はそうドア越しに声を掛けると、 ガチャ その人物を迎え入れた。 「いらっしゃい、沙夜子」 礼菜はドア口に姿を現した沙夜子の姿を見て、そう口元を綻ばした。 メイデン・フォースの戦士達は戦闘後24時間以内に、緊急検診を受ける規則になっている。 だが沙夜子はそれをすっぽかすことが常で、今日は実に約1ヶ月ぶりの『緊急』検診であった。 「もう言い飽きたけど、ちゃんと規則は守って。これは貴女のためでもあるんだから」 診療機器の準備をしながら、そう礼菜は背後の沙夜子に声を掛けた。 だが、こんな忠告を彼女が聞くわけがないことは、多分に理解している。 きっと私の後ろでは、仏頂面をした沙夜子がいつもの如く、足を組んで座っていることだろう。 その姿を想像するとどこか可笑しさが込み上げてきて、礼菜は思わず微笑を浮かべた。 だが、珍しいこともあったものだ。 カタカタとキーボードから検査機器に設定条件を入力しながら、礼菜はそう思う。 今回の検診は、沙夜子自ら申し出たのである。 いつもであれば蒼乃あたりに頼んで、無理矢理引っ張ってきてもらいでもしないと、彼女がやって来ることはない。 ボディー・スーツから送信されたバイタル・データを見る限り、体調面でも異常はないはずだ。 それに、と思いながら、礼菜は横目で沙夜子の姿をまじまじと見つめた。 今日の彼女は、ブラウスにスカート、という出で立ちであった。 女性であればありふれた格好、と言うべきであろうしその衣装は、凛々しい沙夜子の美しさを引き立てさえいる。 だが、女性らしさを極端に嫌う、普段の彼女を知る人間にとってそれは、奇異なものに映るのだった。 本当に、今日はどうしたというのだろう? そう強く疑問に思いつつも、再び礼菜はモニターに目を落とした。 その時礼菜はすっと、背後で沙夜子が動く気配を感じた。 「?」 フッ そのまま振り返る間もなく、礼菜は沙夜子に後ろから抱きしめられた。 「ちょっと沙夜子、何の冗談?」 礼菜は、沙夜子の腕を振り解こうと身を捩りつつ、彼女の手の甲を掴むが、沙夜子の手はまるで彫像のように動かない。 「貴女、一体何を・・・」 そう言って礼菜が沙夜子に振り向いた瞬間、 「むっ、むぐぅっ!?」 礼菜は沙夜子に唇を奪われてしまった。 「はむっ、あむっ」 沙夜子は礼菜の唇を奪うと、唾液を流し込みながら舌を絡め、強制的に唾液を嚥下させる。 次々と唾液が胃の腑へと流し込まれ、礼菜の息が苦しくなったところで、漸く沙夜子の力が緩んだ。 ドンッ 「ぷはっ・・・沙夜子、いい加減にしてっ!」 礼菜は沙夜子の胸を突いて沙夜子から唇を離すと、唾液で汚れた唇を手の甲で拭う。 「貴女・・・どういうつもりなのっ!?」 そして礼菜は、キっと沙夜子を睨み付けながら、そう叫んだのだった。 −わけがわからない− 沙夜子を睨み付けつつも、礼菜は激しく動揺していた。 約2年の間彼女を見てきたが、レズビアンである素振りを感じる取ることはなかった。 そんな彼女がどうして今、こんな素行をするのであろうか? だが沙夜子は邪な微笑を浮かべ、礼菜の様子をニヤニヤと見るばかりだ。 その礼菜の動揺を嘲笑うかのように沙夜子は、 「どういうつもり?・・・そうね、こういうつもりよ」 そう言うと、スカートのホックに手をかける。 「ちょっと、何を・・・」 パサッ 礼菜の言葉が届く前に、僅かに衣擦れの音がして、黒いスカートが沙夜子の腰元から落下してゆく。 そしてスカートが床に届く僅か先に、 ビチャッ 湿った音がして、沙夜子の股下に呪符が一枚落ちたのだった。 「きゃぁっ!?」 露わになった沙夜子の下半身の姿に、礼菜は短い悲鳴を上げる。 沙夜子の中心にはあろうことか、女性にあるべからざる器官が大きくそそり立っていたのだ。 赤黒い色をしたそれは、部屋の照明に反射してヌラヌラと濡れ光り、鎌首をもたげた蛇のようにも見える。 「貴女の後ろ姿を見ていたら、こんなになってしまったの・・・ふふ、貴女をこれで、滅茶苦茶に犯してあげる」 沙夜子はそう言って己のイチモツを握り締めると、礼菜のほうへにじり寄って来る。 その目はまるで、獲物を追い詰める猛禽類のようであった。 ただならぬ雰囲気を漂わせながら迫り来る沙夜子を前にして、礼菜は後ろ手に、 ガチャッ 「もしもし!もしもし!」 内線の受話器を上げ、必死にそう呼びかけた。 だが、その受話器は電子音すら発することはなかった。 「ふふふ、助けを呼ぼうとしても無駄よ。この部屋には結界を張ってあるわ」 そう言って沙夜子は邪な笑みをその顔に貼り付けながら、更にじりじりと礼菜との距離を詰めてくる。 『いけない・・・逃げなきゃ!』 礼菜は両手を壁につき、壁伝いに後ずさりしながら、沙夜子との距離を取ろうとした。 ビクンッ だがその時、体に電撃のような感覚が走った。 「えっ?」 ベタンッ その途端、膝から力が急に抜け、礼菜はそのまま床にへたり込んでしまう。 慌てて立とうとするが、下半身はゼリーにでもなってしまったかのように、全く力が入らない。 「ふふ、効いてきたようね」 「な、何をしたの?」 沙夜子は蹲る礼菜の前に屈み、くっと礼菜の顎に人差し指をかけ自分に向き直させると、 「さっき私の唾液を沢山飲んだでしょう?私の体液はね、強力な催淫効果があるの。ほら、こんなふうに・・・」 そう言って礼菜の豊かな胸を、白衣の上からねっとりと捏ね回し始める。 「・・・ふはぁっ、はぁっ・・・」 それだけで軽い絶頂に達してしまいそうな程の甘い感覚が、沙夜子の指先から礼菜の体中へと広がってゆく。 そしてそれに呼び起こされたかのように、今度は体の中から灼かれるような熱が湧き出し始める。 その感覚が体を満たすと礼菜は、沙夜子の愛撫にただ、荒く息をつくことだけしかできないのだった。 沙夜子は礼菜の反応に笑みを浮かべながら、礼菜の白衣を肩から剥き、 ブチッブチッ その下のブラウスを、ボタンごと引きちぎる。 プルンッ それとともに、上品な黒いレースのブラジャーに覆われた豊かな胸が弾んで外気に曝された。 その頂は、ブラジャーの上からでも分かるほど固くしこっている。 沙夜子は直接ブラジャーの中に手を潜り込ませると、 ムニュッ、クリッ、ムニュッ、クリッ 胸肉を揉みながら親指で押し潰すように、礼菜の乳首を責め立て始めた。 「ふふ、こんなに乳首を起たせて。いやらしい女ね、礼菜」 「はぁ、はぁ・・・お願い、沙夜子、もう止めて頂戴・・・貴女、一体どうしてしまったの?」 沙夜子の愛撫に翻弄されながらも、礼菜はそう訪ねる。 「私?私は真の姿に目覚めて、身も心も邪淫皇様に捧げたの」 「嘘・・・」 だが、沙夜子から帰ってきた答えは、礼菜の想像を遙かに凌駕するものであった。 「ふふ、驚いた、礼菜?そうね、私の真の姿を見せてあげる」 沙夜子はそう言い、礼菜から体を離すと、左胸の刺青を押さえ、 「顕現、『淫亀』」 そう短く呪を唱えた。 すると、沙夜子の体が禍々しい光に包まれる。 そして数瞬の後には、奴隷戦士の装束に身を包んだ沙夜子の姿があった。 「沙夜子、貴女・・・」 その淫靡なコスチュームに、礼菜は目を疑う。 だがその姿は、沙夜子が邪界の王に屈した、という事実を何よりも雄弁に語っていた。 そしてその事実を沙夜子は裏付けるように、 「どう、素敵でしょう、このコスチューム・・・それにもう私は『沙夜子』じゃないわ。私は『淫亀』、邪界の奴隷戦士なの」 そう言いながらうっとりとした表情を浮かべると、そのコスチュームを愛おしそうに撫でつけるのだった。 礼菜はその沙夜子の表情に、背筋を凍らせる。 その表情は今まで礼菜が見たことのない沙夜子の顔−牝−の表情だったからだ。 彼女はもう、誇り高き四神の巫女ではない− 絶望と、込み上げる恐怖心で身動き一つ取れない礼菜に、 「さあ、礼菜。貴女も私の手で、真の姿に目覚めさせてあげる」 淫亀はそう宣言すると、 ベリッ ブラジャーもろとも礼菜の上着を剥ぎ取り、床へ押し倒した。 そして露わになった礼菜の乳房に、淫亀はむしゃぶりつく。 チュルゥジュルゥッ 礼菜の羞恥心を煽るように、淫亀はわざと音を立て唾液を啜り、固く勃起した礼菜の乳首をチロチロと執拗に刺激する。 「あはっ、嫌っ、胸が感じちゃうっ!」 嚥下させられただけではなく、媚薬である唾液を直接乳首に塗布された礼菜は、堪らず嬌声をあげた。 内から生じる悦楽だけではなく、乳首が性器にでもなったかのように強烈な快楽を礼菜に叩き込む。 「ふふ、すっかり牝の顔になったわね」 口の周りを唾液でベトベトにしながら淫亀は、礼菜の胸から顔を離し、礼菜のタイトスカートに手を掛けると、下着もろとも一気に引き下ろす。 「嫌っ、見ないでぇっ!」 「あははっ、何が嫌なの、礼菜?ここをこんなにして!」 露わになった礼菜の下半身を見た淫亀は、そう嘲笑した。 礼菜の秘所は既に愛液に塗れ、そこから溢れ出したものは内股をしとどに濡らしている。 彼女の肉体は当人の意志とは裏腹に、より深い快楽を貪ろうと、淫亀を求めていたのだった。 「そう、そんなに欲しいの。それじゃあ、ご期待にそわなきゃね。うふふ・・・」 そう言って淫亀は挿入の様子がわざと礼菜に見えるように、右手で彼女の腰を持ち上げた。 そして肉棒を左手に握り、礼菜の花弁にじっとりと擦りつける。 秘所から伝わる感覚と、視覚を通して得られる肉棒の凶暴さに、礼菜は恐怖に駆られる。 「お願い、沙夜子、もうやめてっ!」 涙を浮かべながら礼菜はそう淫亀に哀願した。 だが淫亀はサディスティックな冷笑を浮かべると、 「さあ、地獄の快楽を味わいなさい、礼菜」 そう言って礼菜の中へ肉の凶器を突き立てた。 ヌブヌブヌブッ 礼菜の秘肉を文字通り割り裂いて、肉棒は子宮を目指し、奥へ奥へと進んでゆく。 「そんな、そんな大きいの入らないっ!・・・裂けちゃう、裂けちゃうっ!」 膣の中に広がる強烈な圧迫感と秘裂が押し広げられる感覚に、礼菜はそう絶叫する。 だが礼菜の意思とは裏腹に、媚薬の効果で潤みきっていた秘所はギチギチときしみながらも、巨根をすっぽりと飲み込んだのだった。 「ふふふ、口では拒んでいるけど、こっちの口はそうではないみたいよ?」 結合部から溢れる愛液の量に、淫亀はそう哄笑するが、 「あふぅっ、あふぅっ・・・」 内蔵を火箸で貫かれたかのような感覚に、礼菜は辛うじて息を漏らすことしかできない。 その様子に淫亀は、 「答える余裕もないようね。・・・フフ、じゃあもっと追い詰めてあげる・・・」 そう言うと、 ズップズップズップ・・・ 礼菜の膣肉を味わうように、ゆっくりと腰を動かし始めた。 ビュッビュッ その度に礼菜の秘所から愛液が飛び散りながら刮ぎ取られる。 「・・・あふぅんっ、い、嫌ぁ・・・」 淫亀の男根が出入りする度、膣ごとカリで抉り取られるような感覚に苛まれる、礼菜。 だがそれは例えようもない快楽を礼菜の肉体に送り込んでくる。 彼氏とのセックスすら児戯と思わせるほどの快楽。 それは熟れた礼菜の肉体と精神を屈服させるのに十分なものであった。 「ダ、ダメェッ・・・でも、気持ち良い、気持ち良いのぉっ!」 礼菜は涎を巻き散らしながら遂にそう屈服の言葉を叫ぶと淫亀に抱きつき、足を絡めて、積極的に淫亀の責めを受け入れ始めた。 「やっと素直になったわね」 その姿に、淫亀は口元を嫌らしく綻ばせる。 「そう、素直になるから、なるからお願い・・・もっと、もっと激しく突いてぇっ!」 「そうよ、素直になりなさい。そうすれば・・・お望み通り、激しく突いてあげるっ!」 最早性の虜となった礼菜に、淫亀は激しい抽送で応えた。 グチュッグチュッグチュッ 「ああんっ、イイっ、イイのぉっ!」 結合部からは大きな水音をたてながら、二人の混じり合った体液が飛沫となって辺りに飛び散る。 「礼菜、邪淫皇様と私に忠誠を誓いなさい。邪界の性奴隷になれば、この快楽をいつも与えてあげるわ」 淫亀は腰の動きを止めず、そう礼菜に囁きかける。 「ひゃいっ、誓いますっ、邪淫皇様と淫亀様に忠誠をっ!・・・だから、礼菜を性奴隷にしてくださいっ!」 それに礼菜は、必死にそう隷従の言葉を口にした。 「よく言えたわ、礼菜。ご褒美に、闇の精を貴女の中に注いであげる。さあ、たっぷり受け取りなさいっ!」 淫亀は腰を一層深く突き入れると、 ドピュッドピュッドピュッ 彼女の子宮に大量の精液を注ぎ込んだ。 「ああ゛っ、淫亀様のいっぱい、いっぱい子宮に・・・はぁはぁ、もうダメ・・・イ、イクぅっ!」 礼菜は淫亀の射精を受け止めながら下腹部を膨らませ、ビクビクと体を震わせる。 やがて淫亀の胸に崩れ落ちた礼菜の胸には、黒水晶の刺青が浮かび上がっていた。 「ふふ、邪水晶様・・・」 その刺青を淫亀は愛おしそうに、撫でつけるのだった。 「・・・はい、もういいわよ、雪」 聴診器を当てていた礼菜がそう声をかけると、 「ふぅ・・・」 雪は深い溜息を一つついて、捲り上げた上着を元に戻した。 妖魔との戦闘から2時間程経た医務室。 根が真面目な雪は戦闘の都度、直ぐに礼菜の元を訪れる。 今日の戦闘は小競り合い程度のもので特に負荷もかかるものではなかったが、雪はいつも通り、礼菜の診察を受けていた。 居住まいを正すと特にすることもなく、手持ち無沙汰に礼菜の姿を見る、雪。 礼菜は聴診器を事務机の上に置くと、束になった書類を捲りだした。 暫くして、ペラペラとそれを捲っていた礼菜の手が止まる。 「先生?」 その姿に一抹の不安を感じた雪は身を固くして、そう尋ねた。 検査結果に何か異常があったというのだろうか? 「ああ、ごめんなさい、なんでもないわ。・・・ただ、ちょっと貧血気味みたいね」 礼菜は書類から顔を上げると苦笑を浮かべつつ手を振って、雪の杞憂をそう否定した。 「そうなんですか?」 貧血− 確かにこのところ、少し体が重い気がする。 重い、と言っても僅かにそう感じる、といった程度のものではあるが・・・ 未だ一抹の不安が拭えない雪に、 「本当に大したことはないの。ただ、このところ出動回数が多いでしょ?だから、少し疲れ気味なのかもね」 今度は諭すように、礼菜はそう雪に優しく語りかける。 礼菜の言うとおり、このところ本格的な戦闘はないものの、出動回数はやや増加傾向にあった。 本格的な戦闘ではないとは言え、緊張を強いられる対邪界戦は、精神的負担もかかる。 礼菜の説明で、このところの不調に一応の理由付けができた雪は、 「そうですね。・・・そうかもしれません」 少しほっとした表情を浮かべると、やっと緊張を解いたのだった。 そんな雪を尻目に、礼菜は注射器の準備を始める。 手慣れた手つきでアンプルから透明な薬液を注射器に移し取ると、シリンダーを僅かに押し、先端からビュッと薬液を飛び散らせた。 「雪、腕をまくって」 「はい・・・」 雪が左腕を捲ると、礼菜は注射器の針をそこに当てる。 「少し我慢してね」 「痛っぅ・・・」 チクッとする痛覚に続いて、冷たい液体が血管を膨らませる感覚。 だが本来不快感を与えるそれは、不思議と雪の心を落ち着かせた。 「それじゃ、今日の検診はお終い。お疲れ様、雪」 「有り難う御座いました、先生」 「あ、雪、ちょっと待って」 「はい?」 鞄を掴んで立とうとしていた雪を、礼菜は薬品棚を開きながら呼び止めた。 「貴女に、これを処方しておくわ」 そう言うと礼菜は、薬液に満たされた小瓶を雪に渡した。 「薬、ですか?」 そう言いながら雪は、礼菜から渡された小瓶を円を描くように軽く振ってみる。 チャプン 白く粘液質な薬液は、瓶の壁面をゆっくり伝って落ちてゆく。 「疲労回復薬みたいなものよ。生薬だから、ちょっと臭いがきついかもしれないけれど、毎日小さじ一杯ずつ飲んでね」 礼菜は微笑みながら小瓶を受け取ると、プラスチック製の薬さじと一緒に、袋に包んでくれた。 雪はそれを丁寧に鞄に仕舞い込んでから、 「それでは先生、ご機嫌よう」 深々と礼菜に頭を下げ、その場を辞した。 「はい、お大事に」 だが、そう言って雪を見送る礼菜の口の端が歪んでいることに、彼女は気付くことはできなかったのだった。 「ふぅっ・・・」 誰が待つこともないマンションの一室に戻ると、雪は深く溜息をついてソファーに腰を埋めた。 気が緩むと、澱のような倦怠感がじわじわと、全身に広がってくる。 「あ、そう言えば・・・」 雪は礼菜からもらった薬のことを思い出し、バッグの中を探る。 程なく小瓶の入った袋を探り当て、薬瓶と薬さじを取り出した。 「シロップ薬なのかしら?」 雪はそう言ながら、薬瓶の蓋を開けた 「うわ、何この臭い!?」 それと同時に生臭い臭気が、雪の鼻をつく。 雪は息を止めると、慌てて蓋を閉めた。 そしてテーブルの上に薬瓶を置くとキッチンに駆け込み、換気扇を回して、部屋に充満した臭気を追い出しにかかった。 「げほっ、げほっ!」 余りの臭気にむせ返る、雪。 『生薬だから、ちょっと臭いがきついかもしれないけれど・・・』 礼菜のその言葉を思い出し、雪は遠目に、テーブル上の薬瓶を見つめる。 薬瓶はその存在を主張するかの如く照明に照らされ、鈍い光沢を放っていた。 礼菜の処置に今まで間違いがあったことはない− 雪は医師としての礼菜に全幅の信頼を置いている。 だが、これは・・・ 礼菜への信頼感と、薬への嫌悪感を秤に掛けた天秤が雪の心の中で大きく揺れる。 暫し逡巡した後、意を決した雪は、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを持ち出すと、ソファー前のテーブルに歩み寄り、 トンッ それを薬瓶の脇に置いた。 そして、 すうっ 一つ大きく息を吸い込んでから息を止め、薬瓶の蓋を勢い良く開けると、薬さじをその中へ突っ込んだ。 そしてそれを素早く、口内へと運ぶ。 「うぷっ!?」 口の中に広がる臭気と粘つく食感に吐き気を催しつつも、用意したミネラルウォータをあおりながら、 ング、ングッ! 雪は懸命にそれを嚥下しようとする。 その甲斐もあってか、薬液は喉に絡みつつもなんとか喉奥を過ぎ、胃の腑へ収まってくれた。 すると不思議なほど、先程までの倦怠感がすっと消えてゆく。 それとともに緊張の糸が切れ、安堵感が広がる。 礼菜の処方に間違いはなかったのだ− 人を信じたことが正しかった、その事実に雪はささやかな喜びを感じながらソファーに背を預けると、ゆっくり目を閉じた。 雪を送り出してから暫く経った、医務室。 ズチュッズチュッ その部屋の中では、粘液質な水音が響いていた。 「あはぁん、淫亀様ぁ」 礼菜は豊満な胸を揺らしながら、甘えた声で淫亀の突き上げにその身を委ねていた。 その表情は先程までの凛々しい医師のものではなく、淫蕩な牝そのものである。 「ふふ、すっかり蕩けた表情をしちゃって・・・礼菜それよりも、経過はどうなの?」 「あ、はぁんっ、淫亀様、上々に御座います・・・3人に妖魔の精の抽出液を投与したところ、雪にだけ、強い中毒反応が見られました」 「それで?」 その報告に、淫亀は視線を鋭いものにし、抽送の速度を緩めた。 礼菜はそれに落胆した表情を浮かべたが直ぐに、 「彼女に、あるものを処方致しました・・・恐らく、一月ほどで十分な効果が得られるかと」 そう手柄を示し、淫亀に媚びるような視線を送る。 それを聞いた淫亀は、 「くくくっ、そう、雪が・・・あははっ!」 さも可笑しい、といった体で笑い出す。 「淫亀様?」 その姿に、礼菜は一瞬眉根を顰めるが、 「そう、良くやったわ、礼菜。ご褒美に、今日は滅茶苦茶に犯してあげる」 再び強められた淫亀の突き上げに、 「あはんっ、有り難う御座います、淫亀様っ!」 喜悦の表情を浮かべながら飲み込まれていった。 ズチュッズチュッ 礼菜を貫きながら、淫亀も喜悦に満ちていた。 だが彼女のそれは、性の喜びからではない。 『雪、貴女もこちら側に来るのね・・・ふふふ、その時貴女はどれ程、淫らな顔をしてくれるのかしら』 戦友が乱れる様を腹上の礼菜と重ね、淫亀はそうほくそ笑んだ。 『邪水晶様、暫しお待ちください・・・白虎の巫女を貴方様の御手に』 そして、愛する人に奉仕する喜びにその身をうち震わせながら淫亀は、その歪んだ悦びを表すかのように一層、礼菜を激しく責め立てるのだった。 < 続く >
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