香川県の東端に位置する東かがわ市の引田地区で、今シーズンから「ひけた鰤(ぶり)」の出荷が始まりました。ブリと言えば、天然物というイメージが強いのですが、瀬戸内海でとれたひけた鰤は養殖。地元の引田漁協が苦労を重ねて“開発”した魚です。
引田地区は、行き詰まった内海漁業を救おうと、地元出身の野網和三郎氏(一九〇八―六九年)が世界に先駆けハマチの海面養殖に成功した地。一九七〇年代には度々、赤潮被害に見舞われたこともありましたが、九五年には香川県の県魚に指定されるなど、ハマチは今も香川の水産業の基幹魚種となっています。
そのハマチをさらに育て上げたのが、“兄貴分”のひけた鰤。養殖は八八年ごろから試験的に始まり、改良を重ねたいけすの面積は二十五メートル四方と、ハマチのいけすの約六倍。深さもあり、容積では十倍以上と天然の海に近い環境なのが特長です。運動量が豊富で魚へのストレスが少ないため、ある試食会で口にした記者によると「身がしまっていて甘みがあり、天然ブリよりおいしい」。
ひけた鰤は来年一月末まで、主に関東や京阪神地方向けに出荷される予定。今シーズンは約二万匹を見込んでおり、特許庁の「地域ブランド」化も目指しています。
来年は、野網氏がハマチ養殖に成功してから八十周年の節目を迎えます。三月には全国の漁業者らを招いて記念式典が開かれるほか、ハマチを使った新たな加工品の販売も計画されるなど、関係者も意気込んでいます。記念の年を機に、ハマチとひけた鰤の人気向上が期待されます。
(高松支社・安原勇)