日本経団連が二〇〇八年春闘で経営側の交渉指針となる「経営労働政策委員会報告」を発表した。「企業と家計を両輪とした経済構造を実現していく必要がある」と明記し、経営側に賃上げを促す異例の表現となった。
報告は、定率減税廃止などで「手取り収入が伸び悩み、雇用情勢の改善にもかかわらず、個人消費の増勢鈍化が懸念される」と指摘した。日本経済の成長力維持のため、企業業績と並んで家計収入を伸ばすことが必要との認識に立った内容である。
足元の企業業績は好調だ。東京証券取引所第一部上場企業の〇八年三月期連結経常利益は、五年連続で過去最高を更新する見通しである。自動車など輸出企業の業績の好調さが目立ち、中国やインドなど新興国の需要の伸びも収益に寄与している。
半面、企業収益の賃金への移転は後回しになっている。厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、勤労者の所定内給与は〇五年度に七年ぶりに増加したものの、〇六年度は再び前年度比マイナスに転じた。今月初めに出た今年十月の所定内給与も前年同月比0・3%減で、しかも三カ月連続の減少となった。
企業は厳しい競争を勝ち抜くために設備投資や研究開発に資金が必要であり、近年は企業防衛の観点から株主への配当に力を入れる社も多い。その分、従業員への利益還元が遅れたといえる。
しかし、米国の信用力が低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題などで外需が怪しくなり、景気の先行きが危ぶまれる。内閣府が今月上旬に発表した七―九月期の国内総生産(GDP)改定値は年率換算で1・5%増と速報値から1・1ポイント下方修正され、日銀の福井俊彦総裁も二十日、景気は減速局面を迎えたとの認識を示した。
GDPの六割は個人消費が占める。経団連としては、賃金のアップが景気を支え、企業収益を確保することにもつながると判断したのだろう。大企業は賃金の面でもリード役であり、家計への配当に努力してほしい。
大部分を占める中小企業には簡単でないことも確かだ。これまでの景気拡大局面で恩恵が及ぶのが遅れ、原油高や資源高でコストが上昇しても大企業に比べ価格に転嫁しにくい。景気に対する見方も日銀の企業短期経済観測調査(短観)で毎回大企業より厳しくなっている。
だが、原油高などで物価も上昇気味だ。賃金アップが行われず、生活実態が苦しくなるばかりでは、日本の景気の先行きはおぼつかない。
新たな少子化対策を検討する政府の「子どもと家族を応援する日本重点戦略検討会議」が最終報告書をまとめた。
育児休業制度充実など仕事と子育てが両立できる社会的基盤構築のために効果的な財政投入を求めており、現行の年間四兆三千三百億円から最大で二兆四千四百億円の支出増が必要と指摘している。
財源に関しては「次世代の負担で賄うことのないよう手当てする」と強調しているが、具体策は明示していない。与党が決定した二〇〇八年度の税制改正大綱で消費税率引き上げが見送られたこともあり、対策実現に向けた財源確保のハードルは高いと言わざるを得ない。
報告書は、医療保険や雇用保険、児童福祉、母子保健など給付と負担の方法が違う制度の抜本的な見直しによる「体系化された子育てサービス基盤の整備」などの支援策と、働き方の改革を“車の両輪”と位置付けた。
働き方の見直しでは、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)の実現に向けた憲章と行動指針も決めた。行動指針には十年後の年次有給休暇の完全取得や、男性の育児休業取得率10%達成などの具体的な数値目標が明記された。国民的運動につながる環境づくりが求められよう。
少子化の進行は労働力人口の急速な減少を招き、わが国の経済社会に大きな影響を与えるのは間違いない。対策の強化は待ったなしの状況だ。
報告書を踏まえて政府は、社会保障審議会などで必要な法改正や具体策の検討を進める。来年早々には各都道府県に推進本部の設置も要請する方針だ。いずれにせよ、財源措置に裏付けられた抜本策を詰めていかない限り、掛け声倒れに終わるだろう。
(2007年12月22日掲載)