2004年12月に福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡し、執刀した加藤克彦医師が業務上過失致死と異状死の届け出違反(医師法21条違反)に問われている事件の第11回公判が21日、福島地裁で開かれた。
今回は、8月の第7回公判で終わらなかった被告本人への尋問の続き。21条違反があったかについて、弁護側は、女性が亡くなってからの医師と病院側の対応を問いただした。 患者死亡後の経緯生々しく 手術室で女性の死亡が確認されたのは04年12月17日午後7時1分。そのときの心境を問われた加藤医師は、 「突然亡くなられたので、かなりショックで呆然として頭が真っ白だった。信頼して受診していただいたのに悪い結果になってしまって、本当に申し訳ないと思った」 と話した。 手術室ではその後、スタッフ全員で合掌。腹部を縫合し、点滴などの管を抜いてガーゼを充填、病室へ戻す準備をした。広めの病室へ運ぶと、女性の家族ら10数人が入ってきた。死亡に至った経過を説明しようとしたが、目の前に次々にいろいろな人が立ち、罵声を浴びせられることもあって説明できる状態になかったという。 「かなりこたえた。そう言われるのも当然だろうと思い、1時間くらいはその部屋にいた。(結果的に何も言えず)すみませんと何度も頭を下げていた」(加藤医師) その後、別室で女性の夫と双方の両親に経過を説明した。午後2時26分に始まった手術で4時間以上、輸血を待っていた1時間のあいだにも説明がなかったことを家族に指摘されたという。 加藤医師はその後、死亡診断書を書き、午後10時半過ぎに退院する女性と家族を病院の裏口まで見送った。 その足で院長室へ向かい、麻酔医とともに、女性の受診から術中死亡までの経緯を説明。胎盤剥離の経過やクーパーの使用についても説明したが、「医療過誤はないから異状死の届け出はしなくてよい」と院長が判断した。手術直後、および数日後にあった院内の会議でも同様の話が出たが、いずれも届け出は不要と言われたという。 公判を終え、会見する平岩敬一弁護士=21日、福島県庁(撮影:軸丸靖子) 「『お墓で土下座してきてくれ』と言われたので、行った。女性を亡くならせてしまったという気持ちが強く、本当に謝罪したいという思いで自然に土下座した。(その後も)お墓を教えていただいたので、逮捕前までは月命日の前後の休日に行っていた。逮捕後は年1回の命日に行っている」 と語った。 ただ、女性の死亡に関して医療過誤があったかに関して、医療過誤の定義を問われた加藤医師は、医療準則に反した場合に被害が生じた場合」と明言。この件では準則に反しておらず、医療過誤ではないと考えているとの見解を改めて示した。 「検察は何が聞きたいの?」 一方の検察側は、応援医師を依頼するときのやりとりや、術中エコーでの所見、クーパー(手術用はさみ)の使い方などについて、過去の尋問ですでに行ったのと同じ問いを繰り返し、加藤医師の証言の揺れや、供述調書と証言の矛盾を突いた。 特に、癒着した胎盤の剥離にクーパーを用いた考えや使い方については、細かく追及。 供述調書では「クーパーで剥離した」となっているのに、法廷では「クーパーと指を併用した」となっていることについて、「頭の中に(併用は当たり前という考えが)あったというが、声に出して言ったのか?」「この件については前回の証言で何と答えたか?」と記憶を試すような問いを繰り返したため、弁護団の異議を受けた鈴木信行裁判長が「裁判所としては、それについては答えが出ている」と口をはさむ場面も。 「要するに、検察官は何をお聞きになりたいんですか? もう答えているじゃないですか」 といさめても「まだ」と食い下がる検察官を 「(検察が)思った答えが(被告から)出ないというだけじゃないでしょうか」 と制し、傍聴席を驚かせた。 次回は1月25日で、証拠の採否が決まるほか、女性の家族が意見陳述に立つ予定。
総合3点(計3人)
※評価結果は定期的に反映されます。
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