現在位置:asahi.com>社説 社説2007年12月21日(金曜日)付 「肝炎和解案」―解決へさらに知恵を薬害C型肝炎をめぐる訴訟の和解交渉が行き詰まった。 被告の国側が示した修正案に対し、原告の患者側が「一律救済の理念に反する」として拒否し、和解協議を打ち切る方針を表明したからだ。 1週間前に大阪高裁が示した和解案は、国の責任を認めた4地裁の判決のうち、責任の期間を最も短く認定した東京地裁判決に沿う内容だった。 和解案では、肝炎ウイルスに汚染された血液製剤を東京地裁認定の期間に投与されていれば、国と製薬会社はこれから訴訟を起こす患者も含めて和解金を払う。「期間外」に投与された原告に対しては、別の名目で8億円を払う。 救済の対象から全くはずれたのが、「期間外」の投与で、これから訴訟を起こす患者だった。 これに対し、国の修正案は、別の名目の支出を30億円に増やし、配分は原告側に委ねるとの内容だった。「期間外」で今後提訴する患者も、いまの原告と同じように救済することができる。 原告が掲げてきた「救済は全員、一律」のうち、「全員」は曲がりなりにも道が開けた。 だが、原告側は修正案も拒否した。何の落ち度もないのに、出産や手術で止血剤として血液製剤を使われたため、肝炎ウイルスに感染した。そうした患者は一律に救済されるべきだ。投与時期による線引きは許せない、というのだ。 福田首相の政治決断を期待していた原告らの落胆は理解できる。 しかし、ここまで来て和解の道を閉ざすのは得策とは思えない。 C型肝炎の責任の範囲について、地裁の判断はバラバラだ。審理は高裁に移っているが、最終的に最高裁で結論が出るには、なお数年はかかるだろう。 C型肝炎は肝硬変から肝臓がんに至る可能性が強い。決着は早ければ早い方がいい。それには和解の道しかない。 双方の主張の隔たりは、当初よりも縮まってきている。 投与の時期や、いま提訴しているか否かを問わず、被害者はそれなりに救済される。その人数が1000人ぐらいだということも双方で一致している。原告側は国の法的責任にはこだわらず、1人当たりの和解金も引き下げていい、という。 問題は、投与の時期で被害者を線引きすることだ。国は線引きにどうしてもこだわるのか。原告は、事実上の一律救済になる道を探れないものか。 たとえば、薬害の被害が証明できた患者については、国と製薬会社が一括して和解金を払う。それを原告側が基金にプールし、一律に配分する。最終的に被害者数が想定を上回ったら、国などは基金への支出を上積みする。そんな方法も考えられる。 せっかくの和解協議をつぶすのは惜しい。原告、被告双方と裁判所はさらに知恵を絞ってほしい。 「NHK会長」―財界人には務まらないまるでテレビドラマを見ているようだ。つい、そう思ってしまった。 NHKの会長選びのことである。 橋本元一会長は来年1月で3年の任期が切れる。2期は務めるのが通例で、本人も続投に意欲を見せていた。だが、会長の任命権を持つ経営委員会は再任しないことを決め、後任の人選に入った。 ところが、古森重隆委員長の運営が独断的だとして、一部の経営委員が批判の記者会見を開く騒ぎになった。 ことは公共放送のかじ取り役を選ぶ問題だ。面白がってばかりはいられない。 12人の経営委員は、国会の同意を得て首相が任命する。時の政権に近い人がなれば、その人が選ぶ会長も権力に左右されかねない。そんな危うさがある。 古森氏は6月に委員になったが、その前に委員長に内定していた。当時の安倍首相との近さが決め手だったようだ。 それでも、私たちは手腕を見守ろうと考えた。9月に執行部から出された5カ年経営計画案を経営委が突き返した時、その指摘は当を得ていると評価した。 その一方、古森氏は経営委で「選挙期間中の放送については、歴史ものなど微妙な政治的問題に結びつく可能性もあるため、いつも以上にご注意願いたい」と発言した。これは番組への政治的な介入と見られても仕方があるまい。 そして、今回の騒ぎである。委員長が意中の人を強引に会長に据えようとしているのなら論外だ。委員が十分に話し合い、議決する。それが放送法の趣旨だということを忘れてはならない。 NHK会長にはどんな人がふさわしいのか。3年前、前会長が辞任する際、私たちは社説で条件を示した。 何よりも、高いジャーナリズム精神の持ち主でなくてはならない。NHKは常に政治との距離が問われる。会長に報道機関のトップとしての自覚がほしい。 その次は、時代の流れに敏感で、改革の意欲にあふれていることだ。 古森氏は「マスコミのエキスパートではなくても、経営者としての実績があり、しがらみがない人がいい」と語り、財界人の起用を考えているようだ。外部に人材を求めるのはいいが、放送やジャーナリズムに無縁だった人に会長が務まるとは思えない。 まして古森氏が財界人である。会長も経済界からというわけにはいくまい。20年前、財界人が会長になったが、国会答弁のミスなどで9カ月で辞任した。 NHK会長はかつては新聞人が務めた時代がある。同じ公共放送の英BBCでは、民放からも会長になっている。 NHKも広くメディアに人材を求めてみてはどうか。民放のほか、番組制作会社でもいい。そうした人が会長になれば、NHKだけでなく、放送界が大きく変わるきっかけになるだろう。 経営委は焦らず、じっくりと選べばいい。その過程を公開し、視聴者の知恵も借りる。そんな論議を期待したい。 PR情報 |
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