【コラム】2007年海外MMAと、日本の大晦日/高島学


まだ、2007年の全ての試合が終わったわけじゃない。
ヴァンダレイ・シウバ×チャック・リデルではなく――
GSP×マット・ヒューズも残っている。

とりあえず、12月19日時点の『個人的』な海外MMAアワードは以下の通り。


◆ベストバウト
12月8日、TUFシーズン6フィナーレ
ロジャー・フエルタ×クレイ・グィダ
―次点―
6月1日、IFL シアトル大会
クリス・ホロデスキー×シャド・ライルレー


フエルタとグィダの試合は、正直、驚かされた。
勝つことを目標とし、アグレッシブに動く。
そこにはミスも、落とし穴もある。だから相手がまた攻める。
フエルタのスイッチの技術は、エスケープ行為なのに見栄えがあった。
ホロデスキーとライルレーは、北米MMAの打撃技術の高さとアグレッシブさの象徴。
この攻防はMMAキック化云々、以前のレベルにあると思う。


◆ベスト・オーガナイザー
WEC
―次点―
ボードッグ&フューリーFC


WECはズッファ体制下に入り、コンパクトなイベントながら、
その将来性、試合内容とも充実の一言。
見たいなぁ――と思う選手が、次から次へとWECに上がっているという感じだ。
北米がダントツで走る中、その突出具合が目立つだけに、
着実に進歩しているイベントまで頭打ちのような印象になっているけど、
ブラジルのフューリーFCと日本のケージ・フォースは、
北米以外でしっかりと、存在感を示していたと思う。
ボードッグは、もう前半戦、4月までの話題を持ちきりにしたのだから、
現状がどうであれ、あの独創+独走ぶりはしっかり胸に残っている。


◆ワースト・オーガナイザー
(特例として)カリフォルニア州アスレチック・コミッション
―次点―
ボードッグ&ROTR


プロモーションじゃないけど、カリフォルニア州ACの横暴ぶりには、もうホント辟易。
ただの銭ゲバでしょ。
芸能人とプロレスラーの試合は認めるし、ワンデー・トーナメントは復活させるし、
会場での横暴ぶりも目に余る。
あんたらがMMAをどうやって仕切れるの? というジャッジも多かった。
これが世の中なんだろうな――と自分は納得はできない。
次点のボードッグは、もう、腰折れ具合。でも、しょうがない。
ROTRは、自らの大会を開くことなく、プロ・エリート+ICONスポーツに便乗。
これも、しょうがない話だけど、JDの志を聞いていただけに、
この腰折れ具合にガッカリ。せめて若手の育成大会だけでも開いてほしい。


◆ベスト・イベント
10月20日、UFC77
―次点―
6月23日、ストライクフォース&12月12日WEC31


鳥肌が立った――、そう岡見勇信が印象を語った大会UFC77。
地元フランクリンが、リベンジと王座をかけ、アンデウソンに挑んだ一戦は、
超満員の観客は、常にフランクリン・コール。
そのフランクリンは、またも完敗を喫し、場内はブーイングへ。
「ブーイングはやめてくれ、アンデウソンは素晴らしい王者なんだ」という
フランクリンのアピール。
『日本の観客は最高』といわれて久しいが、北米だって変わっていくと思う。
ストライクフォースは、ベイエリア勢VS.世界という趣の大会で、
よくあれだけ観客が集まるなと、感心した次第。
WECは、コンパクト+観客のWEC LOVE度が伝わってくる大会。
ホームの王者ユライア、UFCからやってきたジェンスへの敵愾心、
シンプル・イズ・ベスト、
あれこれ必要以上に考える必要が無いアトモスファが最高だった。


◆ワースト・イベント
6月2日、DYNAMITE USA!!
―次点―
7月14日、ボードッグNJ大会


興業は器でなく、ファイト。
ファイトはスポンサーマネーでなく、リング上。
でも、それを取り巻く環境はビジネスをしっかり考えないと×。
で、格闘技を大前提に置くと、やっぱりDYNAMITEには乗れないし、
割り切れない自分がいる。
ボードッグ、初の米国大会。
これはもう、分かる人は分かり、
分からない人には何のことかさっぱり理解できないだろうけど、
ミゲール・イトゥラテというマッチメイカーのダメなところが全て出てしまった大会。
ファンをリードできずに、理想を追求するのは、もう無理。
って、自分のことを顧みているようで、痛いイベントでした。


◆MVP
アンデウソン・シウバ


次点なし。自分では、2007年のアンデウソンに比肩できるファイターはいない。
3戦3勝、試合内容もほぼ満点。本当に強い、そして謙虚。
それでも来年3月のダン・ヘンダーソンは鬼門といえる相手だろう。


◆モースト・ディサポインテッド・ファイター
ミルコ・クロコップ
―次点―
ランディ・クートゥアー&ニック・ディアズ


誰もがミルコの日本離脱を悲しみ、そして嘆いた――と同時に、
彼の米国、UFCでの成功に疑いを持っていなかった。
個人的にはナパォン戦の敗北より、
カンゴ戦の判定負けに、K?1時代に時折り顔を覗かせた、
彼の気持ちの弱さが出てしまったのが、気がかりだ。
クートゥアーは、オクタゴンで受ける印象とのギャップが大きすぎる
オクタゴン外でのマネーゲームの仕掛け方が、著しくイメージを損ねてしまった。
(でも、ついに表に出たっ――って感じもなきにしもあらず)
あと、五味に事実上の勝利を挙げておきながら、
その後の失速、もうパチパチの手打ちパンチなんか捨てて、
ニックには元のグラップラーの姿に戻ってほしい。


◆モースト・インプルーブド・ファイター
ユライア・フェイバー
―次点―
ホウジマール・トキーニョ&ジェイク・シールズ


もっとも成長した――、そして存在感が大きくなったのは、
そのプロモーションの背景と相まって、ユライア。
正直、フィジカル勝負、ケージに詰めてからのエルボーでのカット、
そして首への絞め技での勝負は、試合としては退屈になりがち。
なのに、その荒さが相手の善戦を引き出すから、序盤に苦戦し、最後に1本勝ちなんて
いう試合が続き、カリスマ的な人気を誇ってしまった。
トキーニョは、小指が1本でも掛かればテイクダウンができるのか?
なんて思いたくなる投げの強さ、そして極の強さ。
自ら下になって、足関節を取ることができる彼をケージ+ヒジ打ちで見てみたい。
ジェイクに関していうと、ようやくその強さに評価が近づいてきたということ。
まぁ、人気が上がるかどうかは分からないけど、
決して試合内容が面白くないというわけじゃないと思う。
彼の強さが楽しめる――、そんな世界になっていけばなぁと。


◆アップセット・ファイト・アワード
4月21日、UFC70
ミルコ・クロコップ×ガブリエル・ナパォン
―次点―
4月7日、UFC69
GSP×マット・セラ

9月22日、UFC76
マウリシオ・ショーグン×フォレスト・グリフィン


インパクトという部分で、ミルコのKO負け。一発で決まったので、1位に。
GSPとショーグン、ミルコもそうだけど、強さの象徴(という部分では、
GSPもショーグンも、自分のなかではミルコより完成度の高い選手だったので
ショックは大きかった)が、敗れた印象的な試合だ。


とまぁ、勝手なことを書かせてもらったけど、
何をまた、コアな話を――と、きっと言われるのだろう。
自分は海外の話になったり、技術の話になるとコアだとか、通だとか――、
そういう風にいわれることを、全く理解できないまま、これまでやってきた。
(だからダメなんだ――という意見は、しっかり受け止めます)


格闘技好き――という括りがあるなら、
別に普通にワールドトップ・ファイターを知りたくて当然だと思ってきた。
彼らが使う技術を、自分が動けないにしても、
どういう風に動いているのか、理解したいと思ってきた。


サッカーでは、ひょっとするとワールドトップ・プレイヤーを知っていても、
Jリーガーのことは知らないファンが多いかもしれない。


野球ならどうだろうか?
日本人以外のメジャーリーガー、2番バッターや6番バッター、
盗塁王、中継ぎを知っている人は、やっぱり通、コアと言われるだろう。


野球は日本国内でトップになれば、
国内スポーツ界最高のステータスと見入りがある。
そして、世界で通用する力を持つ選手も多い。


それだけ、世間に浸透している。
だから、それ以上を求めると、コアになる。
サッカーは、世間に(一部)浸透しているのは、欧州だ。
だから、大宮アルディージャの話、ヴィッセル神戸の話をしているとコアになる。


プレイヤーは――、
野球でもサッカーでも、国内のトップは、力があり、時期があえば米国、欧州を志す。
そこが本場だからだ(と思う)。


PRIDEで活躍していた選手でなく、
PRIDEを目指していた選手たちは、この大連立や一連の大晦日興業を
どのように捉えているのか――が気になる。


今後、大連立は一つの巨大政党、一党独裁を目指すはずだ。
ただ、それは大国の巨大与党でなく、
かもすれば亡国の第一党になりかねない。


格闘技として――。
何度もいうけど、自分にとって、まずは格闘技ありき。
霞を食え――と言っているんじゃない。
夢や理想でなく、格闘技が格闘技として成立していなければ、
その先に、何を求めればよいのか。
生計を維持するために、日常している仕事、それが格闘技という名称であれば、
そこに真剣勝負だから――というだけで、
視聴率を稼ぎ、スポンサーを獲得する目的の試合で、
格闘技という名前のものを提供するのは食品偽装と変わりないと思う。


それは、リングとか、素手とか、ヒジ打ちとか、頭突きとかいう問題でない。
一年も経っていない、ヌルヌルと同じ感覚のことだ。


京セラ・ドームのカードに並んだ右と左の選手、
その二人がリングに上がったときの体重の差は
合計すると、どれだけになるのだろうか。


ここに警告を発する機関はおろか、対抗組織が
大連立の前に、なくなってしまうのではないか。


大連立が、自分たちが生き残るために、格闘技の将来に影を与える
大同団結になってしまわないか。


体重差のあるマッチメイク、大晦日にしか格闘技を戦わない芸能人の登用、
これが、生き残りをかけた日本の格闘技界が求める姿なのか。


谷川さんは「大晦日はお祭りだから」といい、
きっと来年以降、ここを起爆剤にしてしっかりやるつもりでいるに違いない。
(ここに関して、なぜか自分は実は信頼している)。


ただ、お祭りで何があっても、世間は「お祭りだから」では済ませてくれない。


京セラ・ドームのラインナップが、谷川さんの単独での決定だとは思っていない。
要はあのカードが決まる過程において、どのような議論があったのか。
あのカードを受けて、マスコミがどのように反応を示したのか。


来年からの格闘技界に、この議論と反応は活きてくるのか。


自分はやっぱり、ラシャド・エヴァンス×マイケル・ビスピンがメインなる――、
北米がMMA、いや総合格闘技の本場と認めるしかない。


最後に2008年への自分の希望――、


2008年、現在所属するプロモーションの壁を破って見てみたいカード
ジェイク・シールズ×カーロス・コンディット
KJヌーン×クリス・ホロデスキー
ダン・ヘンダーソン×ホウジマール・トキーニョ
ATT×エクストリーム・クートゥアー


基本、UFCはUFC内部の対戦カードが見たい――ということで、
(その陣容の厚さで、トップ・プロモーションとしての)牙城は崩れそうにない。
そんなUFCで、一番活躍してほしい選手は、五味隆典。
ちょっと、聞きかじった情報だと、そのUFC、
大逆転、地上波ゴールデンで中継があるとか――ないとか……。


今、この今が、格闘技に関係している人間には、本当に大切な時になっていると思う。



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【 2007年12月20日 16:39 】

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