◇娘の将来を優先
夫からDV(ドメスティック・バイオレンス=配偶者や恋人間の暴力)を受けた女性は、離婚して一人で子育てする例が多い。住み慣れた土地を離れ、地縁・血縁に頼ることもできず、再就職は容易ではない。
DVの末、元夫の男(43)に長男諒君(当時15歳)を殺された川本弥生さん(45歳、仮名)も、パートと生活保護で生計を立てている。ぜいたくをしなければ生活に困ることはないが、将来への不安は募る。
高校2年の長女亜紀さん(17歳、同)は、保育士になるため大学進学を目指している。弥生さんは学校や市役所などに奨学金の相談をした。海外にはDV家庭で育った子どものための奨学金があると聞いており、なんとかなると思っていた。
しかし、返ってきた答えは「生活保護世帯は、奨学金をもらうことはできない」。どこでも冷たくあしらわれた。親を亡くした子どもを対象にした奨学金はあるのに、DVや虐待を受けた子どものための奨学金も国内にはなかった。今の家計では亜紀さんの進学は無理だと思った。
「私、普通に結婚とかできるのかな」。ある日、亜紀さんが漏らした言葉を、弥生さんは忘れることができない。生活よりも亜紀さんの夢を優先するため、弥生さんは生活保護をあきらめ、亜紀さんの奨学金を受ける決心をした。「何とか乗り切っていきたい」。弥生さんはそう言って前を見つめた。=つづく
〔神戸版〕
毎日新聞 2007年12月20日