特集「ファイナンシャル・パートナーシップ」

サブプライム後の世界経済

「格差を認め流動性の高い社会に」

リーダーに聞く:宮内義彦 オリックス会長グループCEO

宮内義彦氏

 教育と医療との関係で言えば、メディカルスクールを導入すべき。4年生学卒の人材が医学部へ入る。4年間はリベラルアーツを勉強して、それから医学部へ入るというシステムにしなければ、いいお医者さんは生まれません。現状では医学部に行きたければ18歳で進路を決め、勉強の虫にならなければならない。こんな制度は先進国で日本だけです。ついに韓国もメディカルスクールを導入しました。日本だけが変わっていません。

 ―― 農業や観光の分野はどのように成長する可能性がありますか。

 宮内 農業は絶対に輸出産業になります。豊かな土壌、豊富な降水量、そして温暖で四季のあるこれだけ条件の良いところで育った作物の品質が悪いわけがない。

 観光については、今、日本中で温泉宿がバタバタ潰れています。オリックスで温泉宿の再生事業をやっていますが、今は観光は知恵がなければやっていけません。社員旅行で観光地がやっていける時代は終わったのです。

 日本には世界に誇れる観光資源があるのに、それを全く生かせないでいることはとても残念です。例えば沖縄は観光地としてはハワイに負けないほど恵まれているのに、一番景色のいい場所で国が補助金を出してサトウキビを作っている。農地として規制がかかっているのです。

 こういう政策を取ってきた政治の貧困のツケが今、出てきたと思います。

サブプライム問題より深刻な問題は改革疲れの論調

 ―― 宮内さんは孤軍奮闘して規制改革を叫んできましたが、後に続く人がいません。

 宮内 マスコミも含めて、誰もが改革に疲れたという論調です。その日暮らしの論調を見ていると、太平洋戦争に向かって進んでいった時の日本とよく似ているように見えます。「仕方ないやないか」と言って、一歩ずつ深みへはまっていく当時の姿に重なります。

 改革に逆行する今の日本の現状は、米国のサブプライム問題より、もっと深刻な問題を抱えていると思います。アジアの中でも、こんなことが起きているのは日本だけです。

 ―― ただ、改革に逆行することが日本のために良いことであるはずがないということは、政治家を含め、国民全体も薄々感じているはずです。なぜ改革は進まないのでしょう。

 宮内 誰もが自分の既得権益の中で安楽に生きようとしているからです。そもそも政治家の身分が固定化しているのが一番よくない。政治家は今度の選挙に勝てるかどうかしか考えていません。それは政治が家業になっているからです。政治が家業になっている国など、例外はありますが、ほとんどありません。政治が固定化して流動性がないのは、日本の最も深刻な病です。

 ―― 今の日本人はあまりにも危機感が欠如している、ということでしょうか。

 宮内 海外では、誰も日本のことなんて考えていません。存在感がなくなっています。今の日本は音もなく落ちている感じです。情けないです。こんな情けないことないです。

 日本には山のようにビジネスチャンスがあり、それが花を開かすことできたら、世界的な競争力を持てます。それができない状況を、変えていくべきです。

Back
1 2 3
特集トップへ
筆者プロフィール

川嶋 諭(かわしま・さとし)

川嶋 諭

日経ビジネスオンライン編集長

 

 

 

Presented by

特集「ファイナンシャル・パートナーシップ」
【 知られざる欧州の素顔 】
オーストリア:「拡大EU」の中心で栄える中欧の小国
【 The U.S. Economy(ハンカー・オジヤサール) 】
正直者が馬鹿を見るサブプライム救済策
more

バックナンバー

記事・写真・図表の無断転載を禁じます。


この記事を

ほとんど読んだ
一部だけ読んだ
あまり読まなかった

内容は

とても参考になった
まあ参考になった
参考にならなかった

コメントする 皆様の評価を見る

コメント数: 16 件(コメントを読む)
トラックバック数:


読者が選ぶ注目の記事
more

アクセスランキング
more
NBonlineの情報発信