◎世界遺産再提案 「お宝」はまだ埋もれている
石川県内で取り組みが広がる世界遺産登録運動による大きな変化を挙げるとすれば、そ
れまで文化財保護行政の狭い枠の中で位置づけられてきた文化的資産の価値を、地域づくりの視点から見つめ直す新たな「物差し」が定着してきたことだろう。お宝探しの熱気が世界遺産を目指す案件にとどまらず、地域全体に広がってきたことも見逃せない。
世界遺産暫定リスト入りを目指し、石川県と金沢市、白山市など関係自治体が「城下町
金沢」と「霊峰白山」を文化庁に再提案した。今年一月に継続審査となっていたが、この一年間で文化財の指定、あるいは指定のめどがついた建造物や史跡は数多く、構成資産は見違えるほど厚みを増した。
「城下町金沢」を取っても、金沢城跡や鶴丸倉庫はそれぞれ国史跡、国重要文化財の指
定が確実視され、辰巳用水や前田家墓所も国史跡申請のスケジュールが固まった。主計町も、ひがし茶屋街に続き、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定される見通しである。
裏を返せば、これほど国レベルの貴重な財産がありながら、正当な評価がなされていな
かったことの表れであり、お宝は身近なところにまだまだ埋もれているかもしれない。
再提案された「城下町金沢」「霊峰白山」の追加資産づくりでは、天徳院の山門(金沢
市)、白山比盗_社本殿(白山市)も県指定文化財に格上げされたが、これも意外な気がする。文化財保護行政では年代が古いほど価値が高いという物差しがあるが、この二件は江戸期の建築であっても地域の歴史、風土の象徴的な存在であり、技術もその時代としては申し分ない。古さだけに目を奪われていては、せっかくの財産を見過ごすことになりかねない。
来年度の政府予算原案では、国土交通省が創設する歴史的環境形成総合支援費が盛り込
まれ、金沢市が選定第一号の見通しとなった。この制度は歴史的景観や建造物を地域づくりに生かすのが狙いで、世界遺産運動に象徴される金沢の取り組みが評価されたとも言えるだろう。
こうした国の新たな仕組みも活用しながら、世界遺産の再提案で一区切りせず、お宝探
しの意欲を持続させていきたい。
◎薬害肝炎訴訟 政治の責任で交渉再開を
薬害肝炎訴訟の原告と国との和解交渉が打ち切られたのは、残念というほかない。原告
側の「全員救済」の条件は、大阪高裁の和解骨子案の範囲を超えており、これを認めれば悪しき前例になるという国の懸念は理解できる。財政負担が重くなることも避けられない。そうしたなかで、国と製薬会社が責任を認めた期間から外れる患者を三十億円の基金を積み、いわば間接的に救済しようとした案は、それなりに踏み込んだ「政治決断」といえる内容である。
しかし、原告団は国の妥協案を拒否し、あくまで全員救済の原則を貫いた。国への不信
感が、抜き差しならぬところまで来ているのだろう。自分たちだけではなく、あくまで全員救済を求める姿勢はすがすがしく、多くの国民の支持は原告に集まっている。
国は和解交渉をこのまま決裂させてはならない。政治の責任で交渉を再開し、事態を打
開しないと、国民の政治不信は募るばかりだろう。さらにもう一歩踏み込んだ「政治決断」をして、全員救済を打ち出す以外に事態を収拾する道があるとは思えないのである。福田康夫首相が自ら経緯を丁寧に説明し、原告に謝罪する決断をしてほしい。国が弱き者をくじくような光景を、これ以上見せてほしくない。
厚生労働省のリストでは、フィブリノゲン製剤などの投与が原因で肝炎を発症した患者
は四百十八人に上り、このなかに石川県の四人、富山県の六人も含まれている。ただ、この数字は氷山の一角で、推定で一万二千人が感染している可能性があるという。私たちの周囲に、まだ潜在的な患者が多数いるのである。
国は潜在的な患者が次々と名乗りを挙げてくれば、最大で一千八百億円の支出が必要に
なると試算している。それでも原告側の言う通り、被害者の認定基準をきちんとつくり、この基準に達した患者をすべて救済するようにするなら和解対象はそれほど膨大な数にならないはずだ。
原告側は、国が示した一人平均二千万円の和解金を一千五百万円に減らしてでも、薬害
被害者全員の救済を求めている。その切ない思いをくんで、手を差し伸べることこそが政治の本領ではないのか。