過剰なゴルフ接待にとどまらず、多額の現金授受まで行っていたとは。怒りとともに驚きを禁じ得ない。前防衛次官汚職事件で東京地検特捜部は、装備品納入をめぐり便宜を図った見返りに現金約三百六十万円のわいろを受け取ったとして収賄容疑で前次官守屋武昌容疑者を、また贈賄容疑で防衛商社「山田洋行」の元専務と米国子会社元社長の計三人の再逮捕に踏み切った。
いずれも容疑を認めているという。接待から金銭のやり取りへと新たな段階に入ってきた。再逮捕を機にさらに捜査を進め、防衛省にはびこる病巣を暴きウミを出し切る必要があろう。
調べによると、守屋容疑者は装備品納入で便宜を図った謝礼などの趣旨と知りながら二〇〇四年から〇六年にかけて妻の口座や二女名義の口座に送金された計約三万二千ドル(約三百六十三万円)を受領したという。長男の借金返済、二女の生活費名目だった。原資は山田洋行の米国子会社でねん出された裏金で、元専務が指示、振り込ませた。ゴルフ接待と合わせると総額約七百五十万円になる。
他に範を示すべき官僚トップとしてやってはならないことくらい分かっていたはずなのに、なぜ手を染めたのか。汚職への甘い地下水路となったこの裏金はどのように形成され、守屋容疑者以外に流れているのか。官業癒着構造の全容解明が待たれる。
守屋容疑者はこうした利益提供の見返りとして次期輸送機(CX)や次期護衛艦のエンジン選定で元専務に有利な発言をしていたことが明らかになっている。「一切ない」と言っていた国会の証人喚問に反することだ。対空ミサイル防御装置納入に絡み山田洋行が約一億八千万円の水増し請求を行った問題でも、担当外の防衛局長だった守屋容疑者が同社側から報告を受け、減額措置だけという異例の対応で終わっている。
水増し請求は国民の血税の横取りであり許すことができない。山田洋行だけのことなのか。他社はどうか。政府は有識者による「防衛省改革会議」を発足させたが、この点を早急に解明する必要があろう。不正の温床になっている商社依存の取引を見直し、透明性が確保できる改革案も打ち出さなければならない。
守屋容疑者と業者との癒着は山田洋行の元専務にとどまらず、もっと大手企業へも及んでいないのか。また、同容疑者は衆参の証人喚問で元専務との宴席に政治家が同席していたと証言していた。防衛族議員と業者の癒着はないのか。こちらの方にも捜査の手を伸ばしてほしい。
原爆症認定基準の見直しを進める自民、公明両党の与党プロジェクトチーム(PT)がまとめた案と、厚生労働省の検討会の最終報告が出そろった。認定枠拡大への双方の主張には差があり、福田康夫首相の判断が今後の焦点だ。
被爆者健康手帳を持つ被爆者が、原爆放射線が原因の病気になって治療が必要と判断されると厚生労働相が原爆症と認定する。だが、認定基準が厳しく、被爆者健康手帳を持つ約二十五万人のうち、原爆症認定者はわずか約二千二百人にとどまっている。
認定申請の却下をめぐる集団訴訟では、国の認定審査は誤りだとする判決が相次いだ。政府は見直しを始めたが核心は、爆心地からの距離で被ばく線量を推定し、年齢や性別を加味して病気ごとに発生確率を算定する「原因確率」の是非である。判決は「一つの考慮要素として用いるにとどめるべきだ」などと、機械的な適用を戒めた。
与党PTの見直し案は、原因確率に依存する現行の認定の在り方を改めるとした。直接被爆者を原因確率を使わずに自動認定する範囲を爆心地から三・五キロとすることも盛り込んだ。
一方、厚労省の検討会がまとめた最終報告は、放射線の影響が明白な場合には審査を省いて原爆症と認定し、それ以外でも下痢や脱毛といった急性症状など個別の事情を総合的に判断する「二段階方式」を導入した。しかし、原因確率を基礎とする現行審査の枠組みは維持するとしたことで、小手先の修正にすぎないとの反発が出ている。
被爆者の高齢化が加速している。救済へ向け、大胆な見直しが大切だ。福田首相は被爆者の納得のいく認定基準を示すべきだ。
(2007年12月20日掲載)