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危険運転罪見送りか、異例の訴因追加を命令 3児死亡事故 '07/12/19

 飲酒運転で多目的レジャー車(RV)に追突して海に転落させ三児を死亡させたとして、危険運転致死傷罪などに問われた元福岡市職員今林大いまばやし・ふとし被告(23)について、福岡地裁(川口宰護かわぐち・しょうご裁判長)は十八日、福岡地検に対し訴因変更を命じた。予備的に業務上過失致死傷と道交法違反(酒気帯び運転)の罪を追加する内容。地裁は危険運転の適用は困難と判断したとみられる。結審後の訴因変更命令は異例。

 地検によると、地裁が求めてきた業務上過失致死傷罪の内容は、脇見による前方不注視だという。地検は「年内に結論を出す」としているが、このままだと危険運転致死傷罪は無罪となる可能性が高く、命令には従うとみられる。

 事前に地検から説明を受けていた三児の両親の大上哲央おおがみ・あきおさん(34)夫妻は「厳重に処罰してほしい気持ちはあるが、客観的証拠に基づく冷静な判断であればやむを得ないと受け止めています」との談話を発表。

 代理人を務める羽田野節夫はたの・せつお弁護士によると、これまでも夫妻は今林被告に対し「なぜ助けてくれなかったのか」という思いの方が強く、危険運転の成立にはこだわっていなかったという。

 今林被告の弁護側は「無理に無理を重ねて立件しようとしているのだから、訴因変更命令は当然」とするコメントを出した。

 今林被告は、危険運転致死傷と道交法違反(ひき逃げ)の罪に問われ、検察側は併合罪の最高刑となる懲役二十五年を求刑して結審、来年一月八日に判決の予定だった。

 危険運転致死傷罪ではなく、業務上過失致死傷罪が適用されれば、判決の最高刑は懲役七年六月となる。八日はいったん審理を再開する予定。

 六月に始まった公判では「アルコールの影響により正常な運転が困難だったか否か」という危険運転の成否が最大の争点となった。弁護側は「酩酊めいてい状態ではなく微酔だった」と反論していた。

 今林被告は、昨年八月二十五日夜に飲酒をした後に車を運転し、福岡市東区の「海の中道大橋」で同市の会社員大上さんの一家五人が乗ったRVに衝突、博多湾に転落させ、三児を水死させたとして起訴された。

▽危険運転致死傷罪 1999年、東京都の東名高速で飲酒運転のトラックに追突された車が炎上し、女児2人が焼死した事故などをきっかけに刑法に新設され、2001年12月に施行された。悪質な交通事故の厳罰化が目的で、法定刑の上限は死亡事故で懲役20年、負傷事故で同15年。飲酒や薬物の影響で正常な運転が困難だったと証明できる場合や、無軌道な高速走行、赤信号無視などで死傷事故を起こした場合に適用されるが、構成要件は厳しく、女児4人が死亡した06年の埼玉県川口市の園児死傷事故では適用されなかった。

▽予備的訴因 起訴状に記載された具体的な犯罪事実のことを「訴因」と言う。刑事訴訟法では、犯罪とされた行為に適用すべき罪名が複数考えられる場合、いくつかの訴因に順位をつけて公判を進めることができると定められており、起訴罪名に次ぐものが「予備的訴因」と呼ばれる。公判中に検察側が追加することが多いが、裁判所が審理の経過を見ながら、検察側に予備的訴因の追加を命じることもある。判決は、いずれかの訴因を基に言い渡される。どの訴因も立証されていないと裁判所が判断すれば無罪になる。

▽3児死亡事故の経過

 2006年8月25日 福岡市東区の「海の中道大橋」で深夜、会社員大上哲央さん(34)ら家族5人が乗った車が追突され博多湾に転落

 26 大上さんの長男、二男、長女の水死を確認。福岡県警が業務上過失致死傷容疑などで福岡市職員(当時)今林大被告(23)を逮捕。呼気からアルコールを検出

 9・16 福岡地検が危険運転致死傷と道交法違反(ひき逃げ)の罪で今林被告を起訴

 07・6・12 福岡地裁の初公判で今林被告が危険運転を否認、ひき逃げは認める

 11・6 検察側が危険運転致死傷と道交法違反の併合罪として最高刑の懲役25年を求刑

 11・20 弁護側が業務上過失致死傷罪にとどまると主張し、結審

 12・18 地裁が、業務上過失致死傷と道交法違反(酒気帯び運転)の罪を予備的訴因として追加するよう地検に命令




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