飛んでくるミサイルを撃ち落とす試験に、海上自衛隊のイージス艦がハワイ沖で成功した。しかし技術的な一局面での成功に目を奪われて、ミサイル防衛(MD)システムが抱える数々の疑問を見落としてはならない。
標的の模擬弾は、ハワイの米軍基地から発射された。数百メートル離れた洋上で待機していたイージス艦がレーダーで探知して追尾し、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)によって撃ち落とした。
日本は、想定されるミサイル攻撃に対して(1)SM3によって大気圏外でたたく(2)失敗したら地上配備型ミサイル(PAC3)で着弾前に迎撃する―という二段構えの防衛システムをとっている。
その要とされるのが、ハイテクを駆使したSM3である。試験の成功で一定の安心感を得た国民も少なくあるまい。
ただ場所や時間を決めての試験だ。予期せぬ事態に対応できる精度かどうかは分からない。攻撃する側が守りの弱点を突く研究を重ねればほころびも出よう。軍備の開発競争に陥りかねない。
米国に向かうミサイルを日本が途中で迎撃すれば、憲法で禁じた集団的自衛権の行使に当たるのではないかとの疑念も出てくる。
さらに根本的な問題を考えねばなるまい。想定されるような攻撃は現実味があるかだ。北朝鮮がミサイルを発射し核実験を強行した昨年、日本は緊張した。しかし六カ国協議が進展し、流れは米朝対話に変わりつつある。
もともとMDは北朝鮮を敵視するブッシュ大統領が進めた。小泉純一郎元首相も同調して二〇〇三年、日本は同盟国で最初に導入を決めた。しかし米民主党はMD予算に厳しい姿勢を示している。来年の大統領選次第では米国の政策転換も考えられよう。
現実的な問題は、財政再建下での膨大な出費だ。システムすべてで八千億―一兆円かかり、開発中の次世代型に更新すればまた巨費がかかる。石破茂防衛相は「抑止力はお金で計れるか」と会見で述べたが、テロ攻撃からの防御も含めた国の安全がMDによって万全に保障されるわけではない。
国の守りは必要だ。しかしそのシステムでどこまで守れるか、費用は妥当か、過剰装備になっていないか―を国際情勢を見ながら常に検証し続ける必要がある。いったん導入を決めたために多額の予算が毎年米国の産軍複合体を潤すような事態は避けたい。
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